ある日突然、妻が子供を連れ去って出て行った。居場所はわかっており、離婚も成立しておらず、親権は夫にもある。だが強引に子供を連れ戻せば、「誘拐犯」になってしまう。妻には1000万円超の収入があるが、月1回の面会を続けるには月12万円の支払いが必要だ。裁判所では虚偽の事実から「DV夫」に仕立てられ、親権も危うい。どうすればいいのか――。

※以下は雑誌『PRESIDENT』(2017.10.16号)の特集「ヤバすぎる『法律』の常識」で紹介したエピソードの拡大版です。誌面では対処法や注意点を紹介しています。あわせてご覧ください。

共に年収1000万円超の夫婦 妻が子供を連れ去った

「はじめはただ、家族と一緒に暮らしたい、子供に会いたいという気持ちだけでした。自分がどんな状況に置かれているかを理解するまで数カ月かかりました」

9月25日発売の雑誌『PRESIDENT』(2017.10.16号)の特集は「ヤバすぎる『法律』の常識」。

大手商社の関連会社の部長である高木弘さん(仮名、51歳)は5年前の自分をそう振り返る。

ある夜、いつものように帰宅すると家のなかは真っ暗だった。明かりをつけると妻子の姿はなく、主な家財道具が持ち出されていた。置き手紙はなく、妻のケータイを鳴らしても、妻の実家に電話しても、連絡がつかない。一瞬、家族が犯罪に巻き込まれたのかと疑ったほどで、それが典型的な“子供連れ去り別居”だと知るはずもなかった。

妻子の居場所はすぐにわかった。

近所を歩いていて偶然、ある家の玄関の前に、自分が息子たちに買った自転車が並んでいるのを見つけたのだ。妻は自宅から徒歩10分ほどの場所に部屋を借り、6歳の息子と4歳の娘は以前と同じ小学校と保育園に通っていた。しかし、妻は家に戻ろうとはしなかった。

▼夫は妻の不満を受け流すことが多かった

「一緒に暮らすうちにもっと話し合うべきだった。そう気づくのが遅すぎました」

高木さんが妻と結婚したのは12年前。40歳近くになってからの遅い結婚だった。妻はフリーランスのライターで7歳下。結婚、出産後も仕事を続け、子育てをしながら主に自宅で原稿を書いた。

妻は数年前から、高木さんに「独身時代に比べて、仕事が思うように進まない。家事や子育てを手伝ってほしい」と不満を訴えていた。だが、高木さんは妻の不満を受け流すことが多く、家事や育児の分担について根本的に見直すことはなかった。