「こんなに丁寧に料理できない」と思った
レタスクラブの編集長、松田紀子氏は、仕事と家事・育児を両立するワーキングマザーだ。しかし、もともと料理は苦手であり、一児の母となってからは、それこそ歯を食いしばって料理をするようになったという。レシピを中心に掲載する『レタスクラブ』にも、仕事で関わるようになるまではまったく興味がなかったと話す。
「初めて誌面を見た時、『こんなに丁寧に料理する時間はない』という徒労感を覚えましたね。仕事で疲れて帰宅しているのに、この上、夕食に4品もつくるなんて無理だ、と。今の時代、働くママたちはもちろん、専業主婦の方も子どもの習い事や送り迎えで多忙な日々を送っています。外食への抵抗も薄れましたし、そこまでちゃんとした料理をつくらなくても、明るく元気に過ごしている家庭はたくさんある。それなのに、多くの女性たちはいまだに意識の奥底で『家事をきちんとできない自分』に、罪悪感やジレンマを感じているのです」
周囲の人たちに話を聞いてみたところ、「レタス(クラブ)のようには(料理を)作れない」「レシピが難しそう」という意見が8割を占め、「できない私はダメな母親だ」と自分を責める人もいた。
「当時のレシピも、よく読めばそう難しいものではないんです。でも『良妻賢母による、正しい料理』を思わせる誌面は、今の時代の読者からは遠く、ともすれば、彼女たちが自分を責めるきっかけにもなりかねないように感じました。もう、女性たちは『家事をちゃんとやらなければいけない』という呪いから解放されてもいいじゃないかと思ったんですよ」
新コンセプトは「正しさよりも楽しさ」
そんな中、隔週刊から月刊化されることが決定した。編集長就任から半年後のことだ。松田氏は、リニューアルにあたって、「これまでのやり方を全て変えなければ」と考えた。長年の愛読者も大事にしつつ、新たな読者層をつかむためにどこまでやるべきなのか。どういう方針にすればいいのか、編集部のメンバーとも散々話し合ったが、結論は出なかった。
「この半年間に感じたことから『正しさよりも楽しさ』が肝になると考えました。良き母、良き妻になることより、毎日やらねばならない家事を少しでもラクにし、少しでも楽しむほうがいい。優等生の路線を捨て、本音をさらけ出す内容を誌面に反映していこうと。コンセプトは、『悩まない、考えない、生活はもっとラクできる』に決めました」