「痩せてないとイケてない」という呪縛

で、私はそれでもいいと思っている。いったい何なのだ、昨今の日本の風潮は! 「イケてるビジネスマンはやせている」的なビジネス書もどきが売れたり、「貧乏人は炭水化物ばかり食ってるからデブ」「エグゼクティブ層は腹を満たすために食べるのではなく“健康”を獲得するために野菜を食べる」と批評したり、いちいち差別的に断じて、危機感を煽るような空気は気色悪くて仕方がない。

しかし、「イケてるビジネスマン」ワナビーのバカはそうした風潮にすぐに食いつく。そして、せっかくの外食なのに妙に高いだけで大してうまくもないサラダのみで済ませたり、コンビニの「サラダチキン」を食っては「時代は糖質オフだよね」なんてホザいたりするのだ。

いい年をしたオッサン・オバサンは、もう「痩せていない人間はイケてない」みたいな呪縛から解放されてはいかがだろうか。痩せているほうが確かに自分を律する人に見えるかもしれないが、結局人生というものは、いかにストレスを減らすか、ラクに生きるかを考えるのが肝要なのである。あとは、いかに「競争」に晒される機会を減らすか。そうした意識を持つことこそ、幸せな人生を送るための第一歩だと、私は考える。

だいたい、ジムに行ったり、皇居の周辺を走ったりすると、基本的には「オレのほうが足が速い」やら、「ワシのほうがさらに重いバーベルを上げられる」やら、「私の着ているウエアのほうが高い」などと、自分のまわりが他人との競争だらけになってしまうのである。体を鍛えなければ、体重を減らさなければ、といった課題は、自然と見知らぬ他人との競争を強いられる状況をもたらし、それがストレスにつながっていく。

体型よりも仕事の実績

そりゃ、アスリートや俳優、モデルであれば、均整の取れた体を作り上げる必要があるだろう。しかし、ビジネスマンに関していえば、基本的には頭脳さえしっかりしていればなんとかなる。デブでも実績さえあれば、周囲は信用してくれるもの。現在の過度なダイエット志向に振り回されがちな状況を、私は非常に問題視している。

私が毎週出入りしている雑誌の編集部には「入稿メシ」と呼ばれる弁当がよく置かれている。これを編集者やライター、デザイナーが食べるのだが、かなり白米が残されているのだ。では、彼らがみな均整の取れた体なのか? というと、まったくそんなことはない。

年相応に中年太りは多いし、女性であっても「オレよりも体重、重そうだな」という人はそれなりにいる。量が多過ぎて残さざるを得ないのであれば仕方がないのだが、「痩せなくちゃ」「炭水化物をたくさん食べちゃダメよね」という強迫観念で白米を残しているのであれば、そこまで無理をしなくてもいいのでは、と思うのである。