しかし、かつての「名門企業」JALにはその復活を願って現場の仕事を愛し、けなげに頑張る若手社員たちもいる。
地方の基幹空港で、国際線の発券業務を行う女性職員Fさん(20代後半)の職場環境も破綻後、大きく変化した。
「やはりお客様離れを感じますね。ちょっとしたミスが起こると『だからJALはダメなんだ』と叱責を浴びることも」
転職を考えているかどうかと聞くと、「好きでやっている仕事。不安はありますが、羽田と成田が拡張する10月までは、何とか様子を見ながら精一杯頑張ってみようと思います」と緊張感を秘めた笑顔を見せてくれたFさん。
「頑張っている後輩たちのため、何としても二次破綻は避けなくては」と、退職勧告年齢に達していないのに、あえて手を挙げた客室乗務員もいる。既婚で子持ちのGさん(30代前半)である。「私が辞めることで、後輩3人分のお給料が出るならと退職を決意しました。JALには何の不満もない」。大好きな会社だからこその決断だとGさんは語る。
「再建に向け、頑張って前を向こう。残る人は、それなりの覚悟で臨もう。今、そんな雰囲気が社内には漂っています」と最後に話してくれた。ナショナル・フラッグの呪縛が解けた社員の健全な精神が、リストラの荒野となったJAL社内にもわずかに芽生えつつあるようだ。
だが、JALの大リストラはむしろこれからが本番といえる。今回、希望退職に応じた社員数は、予定の4分の1程度。自然減も含めるとはいえ、まだ多く残っている。JAL側としては、企業再生支援機構と連携して、引き続き二次、三次の人員削減を行い、それでも定員に満たない場合は、整理解雇に踏み切る可能性が強い。しかし、単に定員数に届くだけの人員をカットしただけでは、V字回復を成し遂げる「筋肉質」の企業に体質改善することはできないだろう。
かつての「親方日の丸」体質のなかで、栄華をむさぼってきた40代、50代のぶらさがり社員を削減し、再生の芽を有する優秀な若手社員を各職場に残さなければ、JALは「大リストラ手術」とともにその企業体力を弱らせるだけだ。
各部署に専門分野にたけた社員はいるが、JAL全体を見渡しても、適切な舵取りを行う「リーダー」の顔が見えない。JAL入りした京セラの稲盛和夫名誉会長も、着任後、失望感を表明している。
アメリカの名門エアライン、パンアメリカン航空(パンナム)は、名門企業の看板を残そうとするあまり、結局、消滅してしまった。これに対し、ユナイテッド航空は、企業をつくり替えるほどのリストラを断行したが、姿を変えて生き残り、現在、コンチネンタル航空との企業合併によって、さらなる再生を目指している。
JALも、現在のままではパンナムと同じ道を歩むことになる可能性が強い。既得権益にすがる社員たちが沈みゆく船にしがみつき、懸命に船を漕いでいた若手も希望をなくす――そんな悪循環が始まってはいないだろうか。