賞与は「本給部分の1.6カ月」
東京の医療が崩壊するのは、もはや時間の問題のようだ。前回、聖路加国際病院の苦境を紹介したが、(http://president.jp/articles/-/21994)最近になって、『週刊現代』(7月8日号)が「赤字22億円このままでは名門東京女子医大(以下、女子医大)が潰れる」という記事を掲載した。私もコメントした。
この記事を読んだ友人(女子医大OB)から「以前から聞いていましたが、ここまでひどい状況になっているとは驚きです」とメールが来た。医療関係者の間で話題となっているようだ。この記事は、女子医大の吉岡俊正理事長が、6月7日に教職員へ送った文書から始まっている。
「平成28年度の収支差額は22億円の赤字で3年連続の赤字となりました」
「3年連続の赤字により、現在の本学には現預金の余裕は全くありません」
「これ以上、医療収入が減少しますと、法人存続にかかわる危機的な事態になります」
こうした理由から上半期の賞与は「本給部分の1.6カ月」(前年度は2.35カ月+扶養手当2カ月)だという。
職員宛の文書で、吉岡理事長は「大変厳しい決定ですが、本学の現状を踏まえた判断です」「現状に対する職員の意識を高め、改善・改革のための具体的な行動が必要です。患者さんが戻り、医療収入増加に貢献する、あるいは経費削減により収支改善に貢献することがないか、各職員一人一人が当事者意識を持ち、真摯に考え、行動をしてください」と呼びかけている。
2歳児に麻酔薬を大量投与
女子医大の転落のきっかけは、2014年2月、2歳の男児が麻酔薬「プロポフォール」を大量投与されて亡くなった医療事故がきっかけだ。
事故を受けて、厚生労働省は特定機能病院の承認を取り消した。事故の前、女子医大の収入に占める補助金の割合は9.3%だった。15年度の決算では4.1%にまで減っている。患者も減った。過去2年間で外来患者は約19万人、入院患者は約7万3000人減った。
だが、女子医大の幹部の危機意識は希薄で、派閥抗争に明け暮れた。吉岡俊正理事長一派は、この事故の責任を問うとして笠貫宏・学長、高桑雄一・医学部長(いずれも当時)を解任し、法廷闘争を仕掛けた。
前出の女子医大OBは「患者を紹介しようとしても、理事長派と学長派の対立が医局の内部部にまでおよんでいるのか、手術をしてもらえませんでした。これじゃ患者も減ります」と嘆く。
女子医大の「身から出たさび」という見方も可能だが、事態はそれほど単純ではない。なぜなら、昨今の医療費の抑制政策が続く限り、都内の総合病院が破綻するのは避けられないからだ。女子医大は、医療政策の被害者という側面もある。背景を解説しよう。