2013年、医療事故が過去最多の3049件に達した(日本医療機能評価機構 発表)。14年には、厚生労働省による診療報酬点数の改定、日本人間ドック学会による判定基準改訂の中間報告などが相次いだ。自分の老後はどうなるのか、医者や基準値、薬を信じてもいいのか。

人間の尊厳を奪う患者不在の医療

――医療過誤や、製薬会社との癒着による不正が相次ぐ。医療現場での経験から、現代の医療に警鐘を鳴らし続けてきた2人の医師、近藤誠氏と和田秀樹氏に話を聞いた。

【和田】2014年4月、日本人間ドック学会が150万人の健診受診者のデータをまとめた新たな「基準範囲」の中間報告を行い、医学会で大バッシングが起こりました。しかし、新基準範囲を批判していた高血圧学会や動脈硬化学会が主張するもともとの基準値は、自分たちで大規模な調査をして導き出したものではありません。これでは患者不在の医療です。

これまで私は精神科医として多くの高齢者を見てきましたが、少しでも認知症の兆候があると入院させ、投薬で治療するという医療には疑問があります。地域的なつながりが強く、多少の認知症でも閉じ込めたりしないような地域では、認知症の進行が遅い。もっとおおらかで高齢者が大切にされる環境をつくらなければいけません。

【近藤】高血圧の最高血圧は長い間、160mmHgが基準とされていました。それが00年には140に、08年から始まったメタボ検診では130というふうにどんどん下がってきた。その背景に何があるのか、です。降圧剤の売り上げは1998年にはおよそ2000億円。それが08年には1兆円を超えました。製薬メーカーは笑いが止まらないでしょう。医者も好きなだけ「病人」をつくり出せます。基準値がある限り、高血圧やコレステロール値の変動が加齢による自然な変化であっても病気扱いされます。海外の論文を読めば、日本で行われている医療がおかしいとわかるはずですが、勉強しない医者が多すぎます。

ただし、医療従事者がどこかで違和感を覚えているのも事実。例えば老人介護に関わっているナースたちを相手に講演をしたとき、鼻腔チューブや胃ろうで強制的な栄養補給を受けたいかを聞きました。百何十人といた参加者のうち、希望者はゼロ。現代の医療が人間の尊厳を奪うことを知っているから、いざ自分の番が来たとするとそれを拒否するのです。今では寝たきりになり、本人の意思を確認できない状態でも、医学によって無理やり生かされています。