マサチューセッツ工科大学(MIT)発のマネジメント理論『学習する組織』。世界17カ国で出版された250万部超のベストセラーですが、しばしば難解だと言われてきました。今回、「学習する組織」の第一人者であるコンサルタントの小田理一郎氏が、初の入門書を執筆。事例をストーリーで示すことで、わかりやすい内容になっています。理論の骨子について、プレジデントオンラインへの特別寄稿をお届けします――。

組織に見られる「学習障害」

前年度末に売上目標のため無理をした結果、今年度は期首から大幅な目標未達。
マネジャーが「自分がやった方が速い」と仕事を抱え込む結果、部下が育たず悪循環。
会議では有力者の発言ばかりが目立ち、それに疑問を示せる雰囲気ではない。

……もし身に覚えがあるとしたら、あなたの組織は「学習障害」を抱えてしまっているかもしれません。それは、ときに企業の存続にもかかわる、大きな問題になりえます。

たとえば、多くの経営者やマネジャーは、「自分の理解の範囲内では」合理的な判断を下すものです。しかし、そもそも視野が狭かったり、思考にバイアスがかかっていたりしたら、どうなるでしょう? 一見合理的な意思決定でも、実際は非合理になってしまいます。目の前の効率を高めることを重視するあまり、長期的な収益性を犠牲にしてしまう、といったことが起こります。

加えて、私たちには、経験したことのないことは見ることも考えることもできない傾向があります。また感情的に受け入れられないことを否定しがちです。つまり、ものごとをありのままに見るのではなく、自分の思考に合致することだけを見る傾向があります。

このような状態は「学習障害」の典型的状況と言えます。見たいものだけを見て、見たくないものは見ない。学ぼうとしない、気づこうとしない状態です。組織に学習障害が蔓延すると、新しい技術の出現、顧客の志向の変化、政府による規制の動き、競合の動向や新規参入などの事業環境の変化を察知する感覚が鈍ってしまいます。そしてやがて環境変化についていけなくなり、凋落してしまうのです。

学習障害に陥っている組織では、しばしば次のような状況が見られます。

・各部署が縦割りで部分最適に走っている。
・現場は混乱し、調整に追われ、ムダな仕事ややり直しが絶えない。
・風通しが悪く、率直な意見交換も見られずに、社員、中間管理職、経営陣の間に溝がある。
・組織内のタブーが厳然として存在し、本音が語られるのはタバコ部屋や飲み屋ばかり。
・未来やビジョンは語られず、指示待ちの文化がある。
・新事業・新製品開発が目標とされながら、ほとんど動いていない。

あなたの組織は大丈夫でしょうか? もしこのような状態にあるとしたら、変化と不確実性に満ちた今日の事業環境の中、生き残っていくのが難しくなるかもしれません。

変化に適応するには、「学習能力」が必要です。組織の学習能力こそが、持続可能な競争優位やたゆまぬ価値創造のもっとも確かな源泉であるとも言われています。

そこで役に立つのが、「学習する組織」のアプローチです。