3つの力と5つのディシプリン

「学習する組織(ラーニング・オーガニゼーション)」は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のピーター・センゲが提唱した新しい組織の概念であり、実践のための手法体系です。

『「学習する組織」入門――自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践』小田 理一郎著(英治出版刊)

センゲの著書『学習する組織』は世界で250万部を超えるベストセラーとなり、このアプローチはナイキ、ユニリーバ、インテル、VISA、世界銀行など多くの企業・組織に取り入れられてきました。日本でも、日産、リクルート、国際協力機構などで導入され、学習する組織を目指す取り組みが近年広がっています。

「学習する組織」とは、「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、伸ばし続ける組織」です。目的を達成するために自らを磨き、目的に達したらさらに高い目的を設定して能力と意識を高め続けていく。そんな組織です。

より具体的にいえば、学習する組織のアプローチでは、次の3つの学習能力を磨いていきます。

1. 志を育成する力……個人、チーム、組織が、自分たちが本当に望むことを思い描き、それに向かって自ら望んで変化していくための意識と能力

2. 複雑性を理解する力……自らの理解とほかの人の理解を重ね合わせて、さまざまなつながりでつくられるシステムの全体像とその作用を理解する意識と能力

3. 共創的に対話する力……個人、チーム、組織に根強く存在する無意識の前提を振り返り、内省しながら、ともに創造的に考え、話し合うための意識と能力

3つの力は、それぞれを構成する5つの「ディシプリン」から成り立っています。ディシプリン(discipline)はよく規律と訳されますが、ここでは学び習得するべき理論と手法の体系を意味します。以下5つのディシプリンがあります。

・自己マスタリー……ビジョンと現実の両方を見据えて探求・内省を行い、自ら意識的に選択を行うこと、そして根源とつながって自身のあり方を磨き続けること

・システム思考……組織や市場や社会における相互関連性を理解すること、多様な個の集まった全体性を感じること

・メンタル・モデル……自らの思考やコミュニケーションの開放性を保つこと、そして、自らの無知を知りながら真実を愛する心を育むこと

・チーム学習……メンバーたちが「今ここ」にありのままにいてエネルギーを集め、メンバー間の意図や理解が「合致」した状態を生み出すこと

・共有ビジョン……メンバーの間で互いの目的やビジョンの共通性を見いだし、その理念と互いに対してコミットするパートナーシップを築くこと

それぞれ一文の説明ではイメージしづらいかもしれませんが、個人・チーム・組織の意識と能力を根本から高めていくアプローチであることを感じていただけたらと思います。