4万人をマネジメントするキーワード

――現在、世界40カ国以上に事業展開しており、連結で4万人近い従業員がいます。日本人従業員とは違い、出自も生活習慣も違う人たちをマネジメントするコツは何ですか。

基本は「accept」(アクセプト=受け入れる)と「リスペクト(respect=敬意を示す)」だと思います。たとえ買収した会社でも、まずは対等な姿勢で臨みます。グループ会社を含めて円滑に運営するためにもマネジメントの融合が大切です。点と点ではなく、面と面の付き合いを増やし、会議だけでなく食事を一緒にするなど、さまざまな機会でお互いに意見を出し合う。最終的に意見が合わない場合は、こちらが決断する立場にあれば決断を下す。そして決めた以上は従っていただきます。これは国内も海外も変わりません。

ブラザーグループでは「社長賞」というのがあり、毎年国内外の職場が受賞しています。一般には、本社に受賞した職場の代表者を呼んで表彰を行うのでしょうが、私は海外でも出張日程をやりくりして、その事業所を訪れて手渡しします。「担当役員に委ねてはどうか」という声もありますが、目的は、ふだん会う機会がない職場の従業員の声を聞くことです。

海外の事業所での「社長賞」授与風景

組織にとっての理想形は、会社が掲げた目標や目指す方向性を上司が理解して、一緒に働く部下の能力や実力を把握しながら目標に向けて邁進することです。だからこそ私は、頻繁にブログを発信し、できるだけ多くの従業員と交流して意見を汲み取り、自分の考えを伝えているのです。濃密に交流をすることで、最終決断を下す社長の立場では、「ブラザーグループとしてベストと思われる意思決定をし続ける」ことができると考えています。

▼取材後記

小池氏は、若手時代から「オレがやらねば誰がやる」の当事者意識が高かった。非創業家出身だが、44歳で米国の販売会社社長に就任して実績を残し、51歳でブラザー本体の社長に就いた。就任して10年を迎えたが、米国流の経営理論ではなく、昔の日本企業に多かった「家長」のような役割で、社内を牽引する姿勢は変わらない。

高井 尚之 (たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。
(撮影(小池社長)=プレジデントオンライン編集部)
【関連記事】
KDDI「社長の本気」で進んだ女性活躍
野村HDグループCEO「いかに部下のやる気を保ったか」
GE「つながり」を大事にする独自の施策
ネスレ日本社長「百の言葉よりも『勝ち続けること』」
サントリーHD 新浪剛史社長「巨額投資の勝算、これから伸びる産業」