百の言葉よりも「勝ち続けること」

リーダーにとってもっとも大切なのは、言葉ではなく「勝ち方を知っているかどうか」です。ずっと業績が悪いままのチームのリーダーがどんなに言葉を重ねたところでメンバーの心は動きません。百の言葉よりも「勝ち続けること」が何よりも部下のモチベーションを上げるのです。

ネスレ日本社長兼CEO 高岡浩三氏

自分のキャリアを振り返ってみても、周囲から「高岡は左遷されたな」と見られるような厳しいプロジェクトを任され、そこで会社の期待を上回る成果を出し続けてきたことが今につながったと感じています。私がネスレで最年少の部長に抜擢されたのは30歳のときです。それから20年以上、目標の数値を割ったことは一度もありません。

いつも考えているのは「部下のボーナスを上げてやりたい」ということです。ネスレでは目標の達成度によってボーナスの額が決まります。だから私はスイス本社から目標数値が与えられたら、常にそれをはるかに上回る目標を自分のチームに設定してきました。そしてどうすればその目標が達成できるか必死で考え、具体的な戦略を立ててきました。リーダーが具体的な戦略、つまり「勝ち方」を示すことで、初めて部下は「この高い目標は実現可能なんだ」と感じ、各々の持ち場でリーダーシップを発揮してくれるのです。

では「勝ち方」を知るにはどうすればいいでしょうか。それは「小さな実験」を繰り返し「失敗」の経験を積むこと以外にはありません。私自身もこれまでの仕事でさまざまな実験を行い、そのうち9割は失敗してきました。しかしその実験と検証を繰り返した経験によって「このような市場の状況のときには、この手が有効なはずだ」と、机上の論理ではない本質的なマーケティングの感覚が身につき、戦略の力を磨くことができたのです。

その「実験と検証」の経験をネスレの社員たちにも積ませたいと考え、5年前に始めたのが「イノベーションアワード」です。これは全社員一人ひとりから広くネスレのビジネスに貢献するアイデアを発案、実行、検証させ、優秀な成果を出した人には100万円の賞金を進呈するというものです。このアワードからはすでにいくつものイノベーションが生まれています。