トランプ政権最大勢力の代理人
スティーブン・バノン首席戦略官の評価は、特に彼がNSCの常任メンバーとなって以降、我が国では非常に低い。実際、彼には狂人・白人至上主義者・山師・極右等々との評判が付きまとい、彼を重用するトランプ大統領もそれ故に無能と評される。
だが、果たして、その程度の男が米大統領の最側近になれるものなのだろうか。徒手空拳の山師のような狂人が組織的な裏付けもなく、それだけの影響力を発揮することができるのだろうか。実はそんなことはないのだ、ということを、以下では見ていこう。
まず第一に、バノンはトランプ政権最大勢力の代理人だということである。彼はマーサー財団の代理人なのである。
マーサー財団とは、米国の保守派に資金提供している大富豪、ロバート・マーサーと娘のレベッカ・マーサーが運営する団体である。彼らは茶会運動の中でもトップクラスの勢力を誇る、ティーパーティーパトリオッツや気候変動に疑念的な保守系団体などにも多額の資金提供していることでも知られ、コーク兄弟に並ぶ、共和党保守派の運動家や議員に大きな影響力を持つ一派である。
マーサー財団は、当初はテッドクルーズ陣営、彼の敗退後はトランプ陣営に巨額の資金と、コンウェイ(トランプ陣営選対本部長を担った、現大統領上級顧問)やバノンといったお抱え人材や、保有するデータ分析会社等を送り込み、もっとも初期の巨額支援者という地位を勝ち取った。そして、それにより事実上、トランプ政権にもっとも影響力のある勢力となった。実際、トランプ政権の閣僚が副大統領以下、ほとんどが保守派で占められており、その多くがマーサー財団と縁が深い。
しかも、注目すべきことに、それらの中でもバノンはとりわけ厚い信頼をマーサー親子から受けているのである。例えば、バノンは彼が代表を務めていた「ブライトバートニュース」にマーサー財団から1000万ドル(約11億円)もの資金提供を受けていたという。何よりも、バノンとレベッカの絆は注目に値する。
共和党関係者たちはアトランティック誌の取材に、「レベッカは本当にエリート主義への軽蔑という一点で、バノンと問題意識を共有している」「バノンは彼女の(『スター・ウォーズ』シリーズの)オビ=ワン・ケノービなんだ」と口々に語っており、その同志的関係の強さがうかがえる。
このようにバノンとは、彼単独ではなく、マーサー財団というトランプ政権に大きな影響力を持つ勢力が最も信頼する代理人として重用されているのである。我が国で言えば、思想信条はまったく異なるが、自民党における経団連や日本会議の代理人といえばわかりやすいだろうか。この意味で、バノン個人にばかりに注目をする議論は間違っているだろう。