2016年10月、海老原章記さんは日本電気(NEC)に入社した。東京大学卒業後、米国ロックフェラー大学に学び、2015年には博士号を取得している。現在の所属は、データサイエンス研究所。大学院で研究を続けてきた視覚神経科学の知見を活かして、NECが世界一を誇る顔認証技術での活躍を期待されての配属だった。

海老原さんは将来の進路をアカデミアだけに絞ることはせず、就職先の研究室をアメリカで探す傍ら日本企業にも選択肢を広げていた。そのとき目に留まったのが「PRESIDENT Online」の記事(「高学歴ワーキングプア『ポスドク問題』は本当に解消できるのか!?」http://president.jp/articles/-/16855)である。現在NECで活躍されている海老原さんを取材した。

10年後の自分がどうなっているかを考えた

――東京大学、そしてアメリカの大学院では何を学んでいたのですか。
日本電気で働く海老原章記さん。

東大時代は、理学部生物化学科におりました。ロックフェラー大学は、もともと医学研究所で、古くは野口英世、最近では昨年ノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典教授が在籍した大学。いまは生物系の大学院大学です。学部というものがなく、学生はみんな生命系の研究をしています。私は脳の研究、具体的には霊長類の顔認識。私たちが他人の顔を見たときに、脳がどのように活動して、どんな情報を伝えるかを調べていました。

霊長類の脳には、顔を見たときに活動を高める「顔ニューロン」という神経細胞が側頭葉を中心に局在しています。大学院では、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)と電気生理学的手法を組み合わせて、顔ニューロンの活動を計測し、統計学と数理モデルを用いた解析によって、顔に関する情報がどのように伝えられるかを日夜探っていたわけです。

――当然、将来はそうした分野で活躍しようと。

進路を検討する際は、10年後の自分がどうなっているかを考えることにしています。学部卒業当時は分子生物学が全盛で、DNAやゲノムという言葉が飛び交っておりました。しかし、私のやりたい神経科学の研究環境はまだ整ってはいなかったので、アメリカ行きを決めました。その際、指導教官に「やはりトップでなければ意味がないだろう」と励まされて、アメリカで世界トップクラスの研究が行われているロックフェラー大学を選んだわけです。

留学している間、いろんなことを経験するはずですし、人間的にも成長していないといけない。進路については、アカデミアとかビジネスにはこだわらず、いろいろな選択肢から探すつもりでした。アメリカに残るにしても、帰国する場合でも、自分の直感に従ったほうがいいと思いました。