南スーダンは、自衛隊にとって初めて“積極的な武器使用”を認められる場となる。しかし、その救急救命体制に課題が……。

安倍政権の命運賭けた自衛隊派遣

平成28年版防衛白書によれば「駆け付け警護」とは、「PKOの文民職員やPKOに関わるNGO等が暴徒や難民に取り囲まれるといった危険が生じている状況において、施設整備等を行う自衛隊の部隊が、現地の治安当局や国連PKO歩兵部隊等よりも現場近くに所在している場合などに、安全を確保しつつ対応できる範囲内で、緊急の要請に応じて応急的、一時的に警護するもの」をいう。さらにその実施にあたっては、次の要件が必要になる。

・PKO参加5原則が満たされている
・国連および我が国の業務が遂行されている間、安定的に派遣先国及び紛争当事者がその受け入れを同意していること

これらが満たされれば、その行為は「国家」又は「国家に準ずる組織」に敵対して武器使用したことにならず、憲法で禁じられた「武力の行使」に当たらないとされる。要するに「駆け付け警護」とは、自衛隊に初めて積極的な武器使用を認めたものといえるだろう。

さて、安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」が初めて付与された陸上自衛隊の先発隊約130名が11月20日、青森空港から現地に向けて飛び立った。

陸上自衛隊が南スーダンへ出発(日本経済新聞)

その前日に行われた壮行会では、稲田朋美防衛大臣が出席。隊員たちに訓示した。

「これは自衛隊の国際平和協力の歴史の中で、新たな第一歩となるものです」

このような式典に防衛大臣が出席するのは史上初だ。今回の派遣には政権の命運がかかっているからだろう。

南スーダンはスーダン共和国の南部の10州が2011年7月9日、アフリカ第54番目の国として独立した新しい国だ。2013年12月からは戦闘状態が続き、UNMISS(国際連合南スーダン派遣団)は日本を含む各国からの1万6000人の派遣団を展開している。

日本政府は11月15日、「南スーダン国際平和協力業務実施計画の変更」を閣議決定した。これにより、同国で国連ミッションに参加する自衛隊部隊に「駆け付け警護」の任務が付与された。また自衛隊施設部隊に直営地の共同任務を付与することも決定。第11次隊から活動地域を「ジュバ及びその周辺地域に限定する」と防衛大臣命令も下された。

同時に出された「新任務付与に関する基本的な考え方」によれば、「自衛隊が展開している首都ジュバについては、7月に大規模な衝突が発生し、今後の状況は楽観できず、引き続き注視する必要があるが、現在は比較的落ち着いている」としている。また治安情勢が極めて厳しいことを十分に認識した上で、「南スーダンには、世界のあらゆる地域から、60か国以上が部隊等を派遣している。現時点で、現地の治安情勢を理由として部隊の撤収を検討している国があるとは承知していない」とする。

要するに駆け付け警護を付与された自衛隊は、危険な地域へ派遣されたわけではないと主張しているわけだ。果たして実態はどうなのか。

AFPが伝えるところによると、国連の藩基文事務総長は11月16日、国連安全保障理事会への報告書で「大規模な残虐行為が発生する非常に現実的な危険がある」との認識を表明。国連の平和維持部隊では殺戮を阻止できる人員も能力も備わっていないと警鐘を鳴らした。

また7月に政府軍と反政府軍との間で交戦が繰り広げた時、中国部隊が武器や弾薬を放棄したまま任務を放棄したと伝えられた。7月10日には走行車両が携行式ロケット砲による砲撃を受けて1名の中国人兵士が死亡し、負傷した別の兵士がその翌日に死亡している。中国人兵士が任務遂行中に死亡したのは、1979年のベトナム戦争以来37年ぶりで、これは本国に大きな衝撃を与えた。表だった批判は処罰されるため控えられているが、WSJの報道によるとネットを中心に議論が沸き起こっているという。