商いには「心」というものが伴う
「クリーン・オネスト・ビューティフル」、すなわち、清く・正しく・美しく――。とてもシンプルでわかりやすい。著者で、伊藤忠商事名誉理事、前中国大使の丹羽宇一郎氏は経営者時代、この言葉を経営方針に掲げ、実践してきた。なぜならそれが、現代の商人である商社マンが持たなければならない大切な心であり、貫き通せば社会の信用を失うことはないと信じたからだ。
この本を執筆するにあたって、著者は滋賀県犬上郡豊郷町を訪ねている。そこには、伊藤忠商事の創業者・伊藤忠兵衛が暮らした自宅兼職場を整備した記念館がある。おそらく、彼はそこに立ち、自分自身のビジネスマンとしての原点を再確認しようと考えたのだろう。玄関を入った店の間には、往時の出納帳や算盤が置かれ、奥の座敷には立派な仏壇が安置されている。そうした品々の1つひとつが丹羽氏に、近江商人の歴史を語りかけたかもしれない。
初代忠兵衛は「商売は菩薩の業、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足を埋め、御仏の心にかなうもの」と説き、店員にその徹底を求めていた。ここでは“道”という表現で商いが位置づけられている。著者は「これはただ単なる術ではなく、『心』というものが伴う」と書いている。丹羽氏はこれを、忠兵衛の商売に対する倫理観だとし、近江商人の精神として有名な「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)につながるという。