膨大な不良債権の処理と巨額の新規投資で、伊藤忠商事をV字回復に導いたビジネスマン。民間初となる中国大使としての外交官。2つの顔を持つ丹羽宇一郎氏は、新刊『危機を突破する力』で、激動の半生を振り返るが、数々の修羅場に直面したとき、いかに決断し、切り抜けてきたのか――。史上初の7冠独占を25歳で成し遂げ、その後も記録を塗りかえ続ける棋士・羽生善治氏と「ここ一番」の心の持ち方について語り明かす。
【丹羽】私は将棋にくわしくないのですが、勝負という意味では経営と似たところがあると思います。経営では物事を瞬時に判断しなくてはいけない場面が多々あります。そのとき「ちょっかん」を働かせるわけですが、「ちょっかん」には野性的なひらめきという意味での「直感」と、イデアといいますか、哲学的なものに裏打ちされた「直観」の2つがある。羽生さんは対局中、どちらを使って判断するのですか。
【羽生】どうしてその手を選んだのかを論理立てて説明できない判断を「直感」、説明できる判断を「直観」というとしたら、たぶん両方できたほうがいいのでしょうね。
【丹羽】ひらめきという意味での直感は、天才だからひらめくんだという人もいます。そういうものですか。
【羽生】天性のものなのか、環境で育まれるものなのか、私にはよくわかりません。ただ、後から努力の積み重ねで磨かれるものではあると思います。積み重ねといっても、こういう場面にはこうやるとうまくいきましたというケーススタディを重ねても、直感にはつながらない。それよりも時間と状況が限られた実際の盤面で選択を繰り返すこと、つまり実戦の積み重ねが直感を磨く道なんじゃないかと。