【羽生】本当は強くて負けないことが一番いいのですが、その強さを手に入れるまでには、いい負けを重ねていく必要があります。あのときの負けは、そういう負けの一つだった気がします。

【丹羽】負けることが天の配剤だったとしても、努力しないですべて神に委ねることとは違うんですよね。先ほどもいったけど、すべてやり尽くすからこそ結果がどうであれ受け入れられる。私はよく「悲観的に考えて、楽観的に行動しろ」といいます。最悪を考えて準備したら、あとはうまくいくと思って明るくいったほうがいい。

【羽生】そうですね。タイトル戦であと1回負けたらタイトルを失う状態をカド番といって、昔はカド番のたびにプレッシャーを感じていました。でも、いまは慣れてきて、「もし負け越したら次に勝ち越して返り咲けばいいや」と考えられるようになった。もちろん負けないために全力を尽くすのですが、気持ちはとても楽観的です。

【丹羽】そのような精神状態だからいい判断ができて、第一線で活躍し続けられるのでしょう。人生も、そうありたいものです。

棋士 羽生善治
1970年、埼玉県生まれ。96年、王将位を獲得し、名人、竜王、棋聖、王座、棋王、王位と併せて史上初の7冠獲得。2012年、通算タイトル獲得回数92回で歴代単独1位。
 
元中国大使、元伊藤忠商事会長 丹羽宇一郎
1939年、愛知県生まれ。98年、伊藤忠商事の社長に就任すると、翌年に約4000億円の不良債権処理を断行し、V字回復を達成。2010年、初の民間出身中国大使に起用された。
(村上 敬=構成 岡村啓嗣=撮影)
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