最適な言葉と解像度の高い明快なアウトプット

TBS系バラエティ番組「プレバト」の俳句コーナーが面白い。芸能人に、季節に合った絵柄の写真をお題に俳句をつくらせ、才能アリ、凡人、才能ナシにランキングする。問答無用に評価するのは俳人の夏井いつき。毎回、痛快な毒舌と見事な添削に喝采だ。

一流大卒の女優が才能ナシになり、ジャニーズのチャラい兄ちゃんが才能アリになる。例えば、秋の色づいた樹々を見て「寂しい」「悲しい」と書いてしまうのが一流大卒女優であり、ジャニーズのアイドルは、そんな月並みな形容詞で、17文字のうち4文字も無駄にするバカはしない。意外な一言をはめ込んでくる。それは奇をてらったものではなく、斬新な映像をクリアに喚起させてくれる。

俳句とは、十二分な言葉のストックと、そこからの最適な言葉のチョイスと解像度の高い明快なアウトプットで成立する文芸である。この3要件は、ビジネスの言葉にも、当てはまる。日々の報告書、稟議書、企画書等々を、自分のは才能アリだと自信満々に言い切れる人はどれほどいるだろうか。

ロジカルライティングも大切だが、たまには、普段と全く違う視点から、「伝える」と「伝わる」について考えてみてはどうだろう。

『松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙』松浦寿輝、辻原登、 長谷川櫂、松浦 寿輝(著) 河出書房新社

というワケで、誰もが知る俳人ビッグ3を学べるお得な1冊を紐解いてみよう。(ここでは丸谷才一、大岡信、高橋治による「とくとく歌仙」には触れない)

まず芭蕉。江戸前期の俳人で、俳句といえばこの名前が真っ先に浮かぶビッグネーム。

古典の授業で冒頭の一文を暗記させられた「おくのほそ道」。それを、芥川賞作家で詩人、フランス文学者の東大名誉教授、松浦寿輝が現代語にしている。もともと原文も驚くほど短いが、訳文は49ページ。30分もあれば読めてしまう。国語教師からは、死をも覚悟した旅によって風雅の境地を確立した畢生の名作云々と教わっていたが、そんな暗く重々しいイメージは、草加の章で早々と吹っ飛ぶ。身一つで出立するつもりだったのに餞別に貰った品々が重くて困ったとグチっているのだ。大まじめの中に、トホホな芭蕉、オチャメな芭蕉があちこちに発見できる。