人はがんを告知されると、大きなショックに見舞われます。自分の人生を振り返り、むなしく思ったり、落ち込んだり、思い悩んだりすることも珍しくありません。人生での自分の役割や、生きる目的を見いだしてもらい、がん患者さんやご家族に元気になってもらおうと「がん哲学外来」を発足した発起人の樋野興夫先生にお話をお伺いしました。
「がん哲学外来」で心の隙間を埋める
「あなたは何のために存在するのですか」
「どうすれば残された人生を充実させられると思いますか」
「今までどんな生き方をしてきたかは、どうでもいいじゃないですか」
「自分以外のものに関心を持つと、やるべきことが見えてきますよ」
これらは、私の元に相談に来られたがん患者さんに対して私がかけた言葉です。8年以上、がん患者さんやご家族と対面してきて、私が感じていることは、皆さんからの相談は圧倒的に人間関係の悩みに占められているようだということです。
おそらく、健康なときは日々忙しくて、そんなことに気にすることも特に考える機会もないのでしょう。ところが、「がん」を宣告された途端、突如として人間関係が問題として浮上してくるのです。
お医者さんから心が傷つくような厳しいことを言われたり、ご家族から思いやりに欠けることを言われたり、態度をとられた……など、多くの患者さんが、口に出せない辛い思いを経験されていますね。自分ががんだとわかっただけでも十分ショックが大きいのに、それを癒やしてもらえない状況にいる人が実に多い。多くの人が“温かい他人”を求めているように感じます。
そんな人々の心の隙間を埋めるのが、この「がん哲学外来」です。始まりは2008年、順天堂大学病院です。その後、あまりにも全国から人が集まるので、大学病院の外に出して、全国的に展開を開始しました。今は日本全国、約90カ所で展開しています。
「がん哲学外来」で私がやりたかったことは患者さんとの対話でした。患者さんたちは圧倒的に対話が不足しています。自分の不安な気持ち、どうしていいのかわからない心細さ、悔しさ、悲しみ、それらを受け止めてもらえる場所がないのです。そうした気持ちを自由に口に出せる場を作りたかったのです。