自分の人生の目的や使命を見つけ出す

「がん哲学外来カフェ」では難しいことはしません。がん患者さん、患者さんのご遺族、友人ら、さまざまな人が集まり、みんながひとつのテーブルを囲んで、それぞれの思いをシェアしてもらったり、話したいことを語ってもらいます。がん患者さんもご遺族も同じテーブルで、それぞれの立場からの思いを語り合うのです。皆さん、「がん」という共通のテーマを通してその場に集まっているので、どこか根底に互いを理解しようという気持ちが働きます。そして、そういうことに慣れていない人にとっては、互いを理解できるように訓練できる場になると私は思っています。

対話に慣れてきた人は、人生を楽しんで生きるようになります。実際、「がん哲学外来カフェ」は多くのボランティアの人たちに支えられて成り立っていますが、皆さん、元がん患者さんやそのご家族で、今では明るく、自分の人生の目的や使命を見つけ出しています。使命といっても、世界を変えようといった大それたものである必要はなく、「毎日笑顔でいて周囲を明るくしたい」とか、「最期の瞬間まで一生懸命生きる」といったものでいいのです。

私自身は希望者に対し、個人的な面談をします。面談に来られた患者さんひとりひとりのお顔を拝見して、お話をお聞きして、自分の脳の引き出しから、言葉を引き出すように「言葉の処方箋」を出します。向き合っているうちに、相手の背筋が伸びてきたなと思ったらそれでおしまい。もう、患者さんの顔つきは変わっています。

人は“病気”にはなっても、“病人”である必要はありません。病気を個性のひとつと見ることはできないでしょうか。雨が誰にでも降り注ぐように、病気も誰にでも起こるものです。そうなったときにどう捕らえるか、どう生きるか、それが大切なのです。

私には師と仰ぐ人が4人います。「武士道」の著者で教育者の新渡戸稲造、政治学者で戦後初の東京大学総長の南原繁、思想家であり文学者の内村鑑三、経済学者の矢内原忠雄です。彼らの著書を繰り返し読み、私の生きる「基軸」ができました。私が面談者に出す「言葉の処方箋」は彼らから学んだエッセンスです。

現代人は、自分の使命だとか、何のために生きるのかなどについて、あまり考える機会がありません。そのため、病気になったときに戸惑い、ハタと自分の存在価値に疑問をかけるようになるのです。がん哲学外来では、そうした人たちに自分の人生での役割を見いだしてもらえるような力をつけてほしいと思っています。人は自分の使命や役割を見つけると、人生に色彩が添えられたように変わっていきます。たとえ残された人生が短いものだったとしても、役割を見つけた後の人生は、それまでの人生とは異なったものとなります。そして、「自分の役割」は誰にでも必ずあり、それを追求するのが、“人生”だと私は思うのです。

樋野興夫(ひの・おきお)
1954年、島根県生まれ。順天堂医学部、病理・腫瘍学教授。一般社団法人がん哲学外来理事長。2008年「がん哲学外来」を開設。がんで不安を抱えた患者の間にある「隙間」を埋める活動を続けている。著書に『がん哲学外来へようこそ』(新潮新書)、『明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい』(幻冬舎)など多数。
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(取材・構成=田中響子)