勤務医時代、自らも大腸がんになり、その体験からがん治療の問題点や緩和ケア・ホスピスや在宅医療の大切さを実感し、実際に自分が在宅医療に踏み切った医師がいます。東京墨田区で在宅緩和ケア「パリアン」を立ち上げて16年、日本で在宅医療の第一人者となっている川越厚先生は「これからは家で最期を迎えるのが当たり前の時代になる」といいます。

家で最期を迎えるのが当たり前の時代になる

医者になって40年以上になりますが、今やっている仕事は非常に特殊な仕事だと言えるでしょう。それは、死に向かって歩まざるを得ない方たちと向き合う仕事だからです。

川越厚・クリニック川越院長

末期がん患者さんの在宅医療の利用は年々増えています。多くの患者さんは病院への入院を希望されますが、終末期医療だと対応できない施設もあったり、緩和ケア病棟(ホスピス)もベッド数が限られていたり、条件が合わないなどの理由で入所ができない、などのさまざまな理由で在宅医療を選択せざるを得ない人が増えているからです。

この背景には、国が20年以上前から進めてきた政策があります。在宅医療を普及させるために入院期間をどんどん短縮し、現在では平均の入院期間が19日程度です。患者さんは、その後は療養型施設または緩和ケア病棟への入所、外来治療、在宅医療のいずれかを選択することになるのです。

私は自分が大腸がんになった経験から、在宅医療の必要性を感じ、16年前に勤務医から主にがん患者さん対象の在宅医に転向しました。在宅医療はクリニック単体だけでは成り立ちません。訪問看護師、ケアマネージャー、ヘルパー、地域ボランティアなどと連携をとって、チーム体制で患者さんのケアにあたります。在宅医療は患者さんとの信頼関係が最も大切なので、患者さんが不安になったり不便を感じたりしないよう、チーム全体でのサポートが不可欠です。

在宅医療を行う際、がん患者さんか、そうでない(非がん)患者さんかで対応が大きく異なります。がん患者さんの場合は、主に次の3つの点が非がん患者さんと明らかに違うからです。それは、(1)がん患者さんは平均年齢が非がん患者さんより若い、(2)がん患者さんは残された時間がとても短い、(3)がん患者さんは最期まで比較的元気である、です。それぞれについて説明しましょう。