医師であり僧侶という稀有な経歴の持ち主として、長年がん患者さんの死に対する苦しみに向かい合ってきた田中雅博先生。2年前、自身が進行期のすい臓がんであることがわかりました。栃木県にある西明寺の住職として、また普門院診療所の医師として、自らの命と向き合いながら、患者さんの「いのちのケア」に取り組んでいます。

「いのちのケア」をしていた本人に進行がんが

私は内科医でありながら僧侶です。実家が代々寺の住職だったのですが、檀家のない寺なので、医師と僧侶の二足のわらじでやっています。

田中雅博・普門院診療所内科医師、西明寺住職

国立がんセンターで内科医として勤務していたときから、がんの患者さんを数多く診てきました。告知された患者さんが、一様に「死にたくない」「死ぬのが怖い」と苦しむ姿を見て、医学という科学だけでは治すことのできない、何か大切なものが必要だと感じました。その大切なものとは、「死ぬ」という苦のケアであり、最近では「いのちのケア」と呼ばれています。以来、「いのちのケア」の必要性について、勉強会を持ったり、実際に患者さんの悩みを聞く場を設けるなどしながら30年以上訴え続けていました。

そんな私に2年前、進行期のがんが見つかりました。ステージ4bのすい臓がんでした。このステージに入ると、生存期間の中央値がどれくらいであるかで、できる治療が限られていることも把握しています。私としては冷静に「いよいよ来たか」と受け止めています。

手術で腫瘍部分を取り除いてもらった後、EBM(=Evidence-Based Medicine 証拠に基づく医療)で手術後の再発予防として有効性が証明されているTS-1という抗がん剤を使いました。しかし半年後に肝臓転移で再発しました。抗がん剤は、最初のうちは有効でも、ある程度使用すると効かなくなってきます。そうしたら次に有効性が証明されている治療へと移ります。しかし、それもやがて効かなくなる……、こうして一定期間を経て抗がん剤の種類や組み合わせを変えながら治療をするのが、一般的な抗がん剤治療です。私の場合も同様で、再発の後に、抗がん剤併用療法の組み合わせを2種類行いましたが、それも効かなくなり、もはや承認されている治療法がなくなってしまいました。

すでに覚悟はできていますし、今は「いのちのケア」が広まるために力を尽くしています。幸いなことに、多くの人が賛同してくれているので、とても嬉しく思っています。