いのちのケアに取り組む人たちが現れた

お釈迦様は、「我」というこだわりこそが苦しみなのだと説きました。我という執着を離れる仏教は、仏教自身に執着せず、あらゆる宗教(価値観)を尊重します。これが多くの日本人の価値観であり、キリスト教などの一神教のような特定の価値観にこだわる宗教ではありません。このことは「般若心経」にも説かれています。私たち日本人にとってなじみのある「般若心経」は、まさに「いのちのケア」の経典です。(普門院西明寺のホームページに般若心経の解説が掲載されている。http://fumon.jp/material/

逆境の中ではありますが、嬉しいことに、日本にもいのちのケアに取り組もうとしている人たちが現れました。ひとつは全国青少年教化協議会による臨床仏教師です。もうひとつは、2011年3月の東日本大震災をきっかけに臨床宗教師(日本版チャプレン)の集まりができたのです。現在、東北大学その他、8つの大学が参加して「日本臨床宗教師会」が設立され、日本版チャプレンを育てています。事務局は東北大学の「実践宗教学寄附講座」です。寄附講座とは、文字通り、寄付によって成り立っている講座です。東北大学は国立大学ですから寄付控除を受けることができます。この講座が継続して、多くの臨床宗教師が育ってくれることを願っています。

田中雅博(たなか・まさひろ)
普門院診療所内科医師、西明寺住職

1946年栃木県生まれ。東京慈恵会医科大学卒業後、国立がんセンターへ。研究所室長および病院内科医として勤務。83年父の急逝に伴い退職、西明寺の住職に。大正大学大学院博士課程で仏教を学ぶ。90年境内に緩和ケアを行う普門院診療所を建設する。著書に『いのちの苦しみは消える』(小学館)、『般若心経の秘密』(電気情報社)、『軽やかに余命を生きる』(角川書店)など。
普門院西明寺のサイト http://fumon.jp/
(取材・構成=田中響子)
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