妻のがんと娘へのがん教育
5年前、妻が乳がんになったとき、小学1年生になったばかりの娘に、どう伝えればいいのか、すぐに夫婦で話し合いました。「母親ががんになったことを娘に伝えない」という選択肢は、私たち夫婦には初めからなかったのです。
抗がん剤治療が始まれば、妻の髪の毛は抜けてしまいます。また、顔色が悪くなったり、爪が割れたり、寝込むことが多くなったりするのは避けられません。幼くとも娘にも、母親の身体に大変なことが起こっているのを隠すことはできない、と思ったのです。
まだ小学校に上がったばかりとはいえ、娘が家族の一員であることに変わりはありません。そのため、できる範囲でかまわないので、娘にも母親をサポートしてあげてほしい、と強く思いました。娘のサポートで妻が励まされたり、癒されたりする度合いは、夫の私よりも、はるかに大きいはずだからです。
そして、妻にもしものことがあった場合、娘に母親の病気のことを伝えていなければ、「どうしてママの病気のこと、教えてくれなかったの?」と娘に一生の悔いが残ると思ったのです。
ただ、うまく伝えなければ、残酷なような気がしました。特に妻がこのことについて悩んでいました。そこでまず妻に「がんの治療で髪の毛が抜けてしまうこと」「きちんと治療しなければ死んでしまうこと」「元気になるには娘のサポートが必要なこと」を娘の反応を見ながら、伝えてもらうことにしたのです。
また、妻がネットで調べたところ、親が早く死んだとき、幼い子どもは自分がいい子でなかったから、親が病気になって死んでしまったのではないか、と思うそうです。それなのに、いつまでも親が早く死んだことを怒りとともに思い出し、そんな親が許せない気持ちをもつというのです。そのため妻は「ママが病気で死んでも許してね。でも、あなたのせいじゃないのよ」と何度も娘に言って聞かせていました。
その後、私も娘と母親の病気のことを話しました。母親が大変な病気になったことは理解しているようでしたが、まだ6歳の娘には、母親が死んでしまうことはないと思っているようで、動揺の欠片すら感じませんでした。幼いため仕方がないと思ったのですが、娘のショックは、決して小さくはなかったのです。