自分の耳を疑った「がん離婚」という言葉
「妻ががんになったことが原因で、離婚したがる夫はめずらしくない」
このようなことを聞くと、「まさか」と思う人は多いでしょう。私も初めて聞いたときはそう思いました。「死ぬかもしれない」という恐怖に怯えている妻に、そんな追い打ちをかけることができる夫がいるなんて……、と信じられませんでした。
ところが、決してめずらしいことではないみたいなのです。2年ほど前に「がんと離婚」をテーマに、フジテレビの朝の情報番組『とくダネ!』でも特集が組まれたくらいです。
ただ、妻ががんになると、かつて感じたことのない、ずっしりとまとわりつくような重みで心身が疲弊し、気持ちに余裕がなくなってしまうのは事実です。また、日本では夫婦の3組に1組が離婚していることを考えると、妻のがんが引き金となって離婚に至るケースは、そうめずらしいことではないのかもしれません。離婚に至らなくとも、不仲になってしまう夫婦は、結構いるように思えてきます。
夫からすれば責任感から、ずっと妻を支えることができるのか、仕事に支障を来さないか、生活費はもちろん治療費や貯金はどうなるのか、自分が病気になったらどうなるのか、子供をちゃんと育てることができるのか、親の介護問題が起ったらどうなるのかなど、将来のことを考えると、必要以上に不安が頭をよぎるようになります。妻ががんになったことで、追い詰められる度合いが強くなるのです。
家族の絆が強まることも多いのですが、それでも心身ともに疲れることも増えていきます。この疲れは慢性化することもしばしばで、いくら妻のことを思っていても、それが言動に移せないことがあります。責任感が空回りすることも少なくありません。
妻のほうも、死を意識せずにはいられない日々を送っているため、夫の言動に敏感になります。そのため、病気のことを理解してくれていない、責められている、他人事のように思われている、と強く感じることがあるでしょう。なかには「もう離婚したい」と思っていても、経済力の問題で踏み切れない人も意外といるかもしれません。
このように家族の絆が強くなったとしても、お互いにストレスになることが増えてしまうのです。私の場合もそうで、余裕のなさから出た言動で、反省すべきことはたくさんあります。