「ゴールのないマラソン」をやる覚悟

2年半ほど前、肝臓にがんが転移した妻は、抗がん剤治療の副作用で身体がだるくなることはあるものの、元気に生活しています。ただ、再び髪の毛は抜けてしまいました。それでも抗がん剤治療が効いたため、再発から数カ月で肝臓のがんがかなり小さくなり、高かった腫瘍マーカーの数値も大幅に下がって、安定した病状を保っています。

妻ががんの宣告を受けたとき6歳だった娘は、いまでは10歳になりました。正直、ここまで妻ががんばってくれるとは思いませんでした。ただ、複雑な心境ではあります。快復を渇望していたのですが、主治医からは「治るとは思わないでください」といったようなことをいわれたからです。そのため、妻には「がんと一生つきあっていくつもりで長生きしよう」といっています。たとえるなら、ゴールのないマラソンをしているようなもので、妻はもちろん、私にとっても心身ともに苦しいことが少なくありません。

私の場合、普段は妻をサポートするよう心がけていますが、精神的につらくなると限界を感じることもあります。特に収入や仕事に対する不安が加わると、イライラして家庭の雰囲気を悪くしてしまい、いまの生活から逃げだしたくなります。家族のよさをよく知っているのに、独身者は気楽でいいなといじけ、うらやましくなることもあります。私のようなクズは結婚してはいけなかったんだ、と自分を責めることもあります。

こんな自分がほとほと嫌になるのですが、それでもうつ病になって働けなくなるよりは、自分のダメなところをたまには出してでも、ゴールのないマラソンから降りなければいい、と思っています。私と違って泣き言をいわない妻には大変申し訳ないのですが、徐々にでも精神的に強くなっていくしかありません。

それでも普段は妻が生きてくれているだけでうれしく、私の生活の原動力になっています。だからこそ、挫けることがあっても、しばらくすると必ず立ち直ろうと思えるのです。

がんになってからずっと、妻はどう生きていけばいいのか考えています。これといった答えが見つからないため、ときには焦燥感に駆られたり、罪悪感を覚えたりしていますが、これは生きるための欲が出てきた証拠だと思っています。夫の私からすれば、生きる気力をなくすことなく治療を続け、無理せず人生を楽しんでくれるだけで十分なのです。