都市のスラム化阻んだ世界に冠たる「私鉄」網
菅直人首相が「政治生命をかける」と公言し、今通常国会で関連法案の提出が予定されている「公務員制度改革」。民主党が衆院選のマニフェストで掲げた「国家公務員の総人件費2割削減」を実現するための地ならしとして、関連法案では労使交渉で給与水準を決める「協約締結権」が盛り込まれる一方、自治労がプッシュしてきた公務員のスト権付与は世論の批判を受けて、とりあえずは見送られることになりそうだ。
スト権に関しては警察、消防、自衛隊など国民の安全にかかわる組織を除き、一定のルールの下で与えても構わないと私は考える。その代わり、失業保険を導入して公務員もレイオフやリストラができるようにするべきだろう。
国家公務員法や地方公務員法には勤務実績が著しく悪い場合には免職できる旨の条項はある。しかし、そうしたケースでも身分保全を求めて訴訟を起こされると、過去の判例ではほぼすべて国や自治体側が敗訴している。
つまり、犯罪を起こしたわけでもなければ勤務実績が悪かったわけでもないのに、日本の農業従事者数が900万人から600万人になったからといって、農林水産省の職員を3分の2に削ることはできない。クビにする法的根拠がないからだ。そもそも公務員に失業保険がないのは、失業しないことが前提になっているからである。
だが、この身分保障の部分に踏み込まない限り、公務員制度改革など不可能。もっといえば、公務員が何のために存在し、誰の責任で雇うのかという根源的な部分から、ゼロベースで考え直すべきだと私は思っている。
戦前の日本では「内務省」という官僚組織が、今日の厚生労働省、国土交通省、総務省、法務省、国家公安委員会などの権限を一手に掌握して国の近代化に大きな役割を果たした。
その最たるものが「私鉄」だ。現在なら鉄道は国交省運輸局、都市開発は同じく都市・地域整備局、住宅整備は同・住宅局、病院の開業は厚労省というように許認可を与える役所は異なる。が、内務省ではこれらを1セットにして認可できたのだ。結果、私鉄の鉄道網は主要駅から郊外に延び、沿線の駅ごとに宅地開発など街づくりが行われてきたために人口が分散され、日本の都市はスラム化しなかった。こうした私鉄網は世界に類を見ないものなのだ。