前回触れた「TPP」(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加問題もそうだ。農業を志す日本の若者をトレーニングして海外に雄飛させるようなアイデアは、農水省からはもちろん経済産業省からもまず出てこない。とんでもない額の補助金をばら撒くのが関の山で、兼業農家とJA(農協)がもたれあう旧態依然とした農業の貧しい産業構造は維持されるだろう。

役人発想が国民に害をなすケースすらある。その典型がスギ花粉の問題だ。国民の3人に1人が花粉症と言われる時代に、いまだ補助金を出して杉の植林を続けている。花粉症に苦しむ国民の立場からすれば、30年以上前に植林した杉を伐採して雑木林に戻せばいいだけの話。そんな簡単な解決法ですら林野庁の役人には発想できない。それどころか、スギ花粉の予報システムをつくったり、花粉を出さない杉の研究を大学に委託するのが仕事だと思っているのだから、滑稽ですらある。杉の老木をすべて切れば3000万もの票につながる、という発想さえない。

大局観を持てないまま、過去の成功体験にすがって前例を踏襲、繰り返してきた結果、成長期には世界の5年先を突っ走っていた日本の政策は今や30年も遅れてしまった。

では、どうすればいいか。まず、この役人および政策のあり方を何年かに一度、ゼロベースでつくり直すことだ。政治主導でも官僚主導でもなく、「生活者の視点」で見たときに本当の問題は何か、その問題を解決するにはどうしたらいいかを考え、政策を決めていく。役人を「決められた政策に沿った仕事をするためのグループ」と定義し、政策と役割ごとに資源を再配分、つまり予算や役人の数を割り振るのだ。

シンガポールでは任期を終えた役所は解体される。たとえば2000年を期限に世界トップクラスのIT立国を目指して86年に創設されたナショナルコンピュータボード(コンピュータ省)は、3年前倒しで目標を達成して解体された。つまり有限の“サンセット省庁”である。

時代状況の変化とともに必要な政策も変化する。役所もサンセットであって然るべきで、歴史的役割を終えた役所は廃止、あるいは大胆に縮小すべき、というのが私の考え方だ。民主党は役所の統廃合や公務員のリストラができる法案をつくるべきだ。連合からのスト権付与の圧力を逆手にとって、公約である公務員の2割カットくらいは早期に実現してもらいたい。

(小川剛=構成 AP/AFLO=写真)