菅主導ならぬ官主導を露呈した「成長戦略」

民主党政権が編成する初の本格予算である2011年度予算の概算要求基準(シーリング)が7月末に閣議決定した。国債の元利払い約21兆円を除く歳出の大枠を71兆円以下に抑える一方、新規国債の発行額を今年度並みの44兆円以下にすることなどが盛り込まれ、各省庁に対しては社会保障費などを除いた概算要求段階での歳出を今年度予算に比べて一律1割削減するように求めている。

昨夏に誕生した民主党政権は硬直的な予算編成を見直すといって、概算要求基準を廃止した。結果、各省庁の概算要求は膨れ上がり、一般会計額は過去最高の92.3兆円、新規国債の発行額も過去最悪の44兆円に達した。これに懲りて民主党政権は概算要求基準を復活させたわけだが、結局、自民党政権時代の延長線上にすぎない硬直的な予算編成しかできないことを露呈した。

予算の一律1割削減などといっても、役所の抵抗ですんなり運ぶかどうか。もしできたとしても、財政健全化の足しにするのではなく、1割削減で浮くであろう2兆円余りの原資で、民主党のマニフェストと彼らが言うところの成長戦略を実現しようという話。つまり従来通りのバラマキ、無駄遣い、自己満足に使われるだけだ。

今、出回っている「成長戦略」なる方針にしてもすべて役人の作文。政治家は自ら成長戦略の絵が描けず、役所からアイデアを募集して、それをまとめて政治家が発表しているにすぎない。私は2つの役所で成長戦略の話をする機会があったが、各委員が5月雨式に発想したものの羅列以上のものは何もなかった。これが民主党の掲げる「政治主導」の実態。菅(直人)総理主導ならぬ、完璧な官主導なのだ。

今年6月末時点で日本の国債と借入金、政府短期証券を合わせた国の借金(債務残高)は900兆円を突破した。年寄りから赤ん坊まで、国民1人当たり約710万円の借金を背負っている計算になる。しかしこれを勤労者一人あたりにするとその倍以上の借金を税金を通じて返さなければいけないことになる。物理的に負担できる限界を超えていることは明らかだ。

もし今年度並みの予算をもう一度組んで、新規国債を今年度並みに発行することになったら、日本はひっくり返る。国債の信用力は一気に低下して買い手が付かなくなり、あっという間にデフォルト(債務不履行)に追い込まれるだろう。

今の日本は、いわばタイタニック号が氷山にぶつかる一歩手前の危険な状況なのだ。もはや過去の延長線上でやりくりしている場合ではない。大きく舵を切って、国の体質を抜本的に改めなければならない。そこで求められるのがビジョナリー(先見性のある、洞察力のある)リーダーなのだが、今の日本にはそれが見当らない。