ファンダメンタルズによる予想と近視眼的な予想
投機家は、東日本大震災によって日本経済が大打撃を受け、ファンダメンタルズでは円安になることを予想しているのであろうが、近視眼的な目先の円資金需要増大による円高を予想して、投機を行うことによって、為替相場を安定化させるどころか、不安定化させることに100%寄与したのである。それは、リーマンショックによってアメリカの投資銀行に対する経営破綻の波及の懸念が、ドル安ではなくむしろ、ドル資金の回収のためのドル需要増大からユーロやポンドに対してドルが高くなった状況と似ている。
東日本大震災のような災害が起きる非常時においては、前述した、スケジュール通りのフライトの予想(期待)や品切れになるのではないかという予想(懸念)や円高の予想(思惑)が正常時よりも際立ってくる傾向がある。そのため、災害による直接的な経済的影響のみならず、人々の予想に基づいた次的な経済的影響も相まって、全体として経済的影響が莫大なものとなってしまう。災害の直接的な経済的影響が天災であるのに対して、人々の予想に基づいた副次的な経済的影響は人災と言っても過言ではないであろう。災による直接的な経済的影響からいかに復興するかという取り組みとともに、人々の予想に基づく人災をいかに軽減するかが、その後の災害からの復興にも大きく影響を及ぼす。
今後の東日本大震災からの復興において、直近では、前述した日本の企業や金融機関による復興のための円資金需要が拡大することから、日本銀行は、3月14日に15兆円の円資金を供給したが、引き続き円資金の供給を続ける必要がある。それとともに、為替相場が再び円高に振れるようなことが起きれば、外国為替市場において円売り介入を行うことによって円高を抑制するとともに、その円売り介入を不胎化せず、円資金の供給増大をそのままにして、復興のための円資金需要の拡大に間接的に応えることも考慮に入れるべきであろう。
そして、東北・北関東における被災地の復興に早めに取りかかる必要がある。それは、単に元の状態に戻すという意味での復旧ではなく、勢いを取り戻し、さらにその勢いを後押ししてやるという意味での復興であるべきだ。また、そのことによって、打ちひしがれた東北・北関東の被災地の方々だけではなく、日本人全員の希望の光となって、日本に元気が出てくることが望まれる。それには、単に被害を受けた社会インフラを復旧するだけではなく生産性を高める産業を復興・新興させることが考えられる。農業・漁業・畜産業といった伝統的な産業を広域において再生することによってそれらの生産性を高めること。また、ライフ・イノベーション(今回の大震災によって医療分野の重要性が認識された)やグリーン・イノベーション(今回の大震災によって太陽光発電などによる自家発電の重要性が認識された)を活用した新しい産業を東北・北関東において興すこと。これらによって東北・北関東から元気な日本を復活させることをめざすべきだ。
最後に、原子力発電所に関連する風評など、「誤った情報に基づく予想」は、日本の社会と経済を混乱させることとなり、前述した「予想(期待)」や「予想(懸念)」や「予想(思惑)」よりずっと大きな副次的な社会的・経済的影響を及ぼすことに注意しなければならない。