5月4日にASEAN+3財務大臣会議が開かれ、通貨協力において、2つの新機軸が打ち出された。現在のアジアにおける通貨協力と、東アジア各国の金融・通貨政策の思惑を検証する。
各国中央銀行総裁の参加も決まったASEAN+3会議
去る5月4日にベトナムの首都ハノイに東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本・中国・韓国(+3)の財務大臣が集まって、ASEAN+3財務大臣会議が開催された。1999年に始まったASEAN+3財務大臣会議は、今回で14回を数えた。2000年に開催された第2回ASEAN+3財務大臣会議においては、チェンマイ・イニシアティブ(CMI)と呼ばれる地域通貨協力が確立された。これは、通貨危機に直面した国への金融支援を行うための通貨スワップ協定と通貨危機を防止するためのサーベイランス(相互監視)から構成される通貨危機の管理と防止の枠組みである。
その後、通貨スワップ協定の規模が拡大するとともに、二国間協定であった通貨スワップ協定を多国間協定とするマルチ化、いわゆるCMIのマルチ化(CMIM)が実施されてきた。そして、今回のASEAN+3財務大臣会議においては、重要な2つの新機軸が打ち出された。
その一つは、ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)がCMIMのサーベイランス機関として設立されたことである。AMROは、地域経済の監視・分析を行い、リスクを早期に発見し、改善措置の実施を速やかにし、チェンマイ・イニシアティブのマルチ化(CMIM)の意思決定、とりわけ通貨スワップ協定の適用を効果的に行うことが期待されている。
そして、そのAMROの初代事務局長のベンファ・ウェイ氏がASEAN+3財務大臣会議に参加した。なお、AMROの初代事務局長を巡っては、日中間での綱引きがあったと言われているが、ベンファ・ウェイ氏はAMROの1年目の事務局長を務め、2年目以降は日本から根本洋一財務省参事官が就任することとなっている。
CMIMの下で通貨危機管理のためのマルチ化された通貨スワップ協定が迅速に適用されるためには、ASEAN+3諸国経済に関して日頃からサーベイランスを実施することが必要である。また、そのサーベイランスによって、通貨危機のリスクを早期に発見し、当該国経済の改善に寄与することも期待されている。このような諸機能を有するAMROが本格的に始動することとなった。
もう一つは、域内の経済監視および地域金融協力を強化するために、域内の中央銀行総裁の知見と経験が不可欠と認識して、来年以降、中央銀行総裁もこの会議に参加することとなった。そして、会議の名称も、「ASEAN+3財務大臣会議」から「ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議」と改められることとなった。
CMIMが通貨危機の防止と管理を目的としているからには、ASEAN+3諸国通貨について監視しなければならず、そのためには、これらのマクロ金融的側面、すなわち、金利や為替相場について注視する必要がある。また、政策上においては、金融政策や為替相場政策に関して政策対話を開始することが望まれる。さらには、域内諸国間のマクロ経済政策の協調も視野に入れた議論に発展することが期待される。