東日本大震災をうけて、現在、日本の3分の2以上の原発が運転を停止している。原発の運転停止による産業の空洞化を懸念する筆者が、今後の原発のあり方について議論を展開する。
来年5月にすべての原発がストップする
映画「今そこにある危機(Clear and Present Danger)」。ハリソン・フォード主演の1994年のアメリカ映画で、国家を危機に陥れたコロンビアの麻薬カルテルとアメリカ大統領の双方に対して敢然と戦うCIA情報担当官の姿を描いた好作品だった。
現在の日本にも「今そこにある危機」は存在する。それは、「日本沈没」の最悪シナリオだ。映画「日本沈没」。小松左京の小説にもとづく作品で、石油ショックが起きた73年に上映され、大きな反響を呼んだ。各地で続発した大地震により、日本列島が完全に消滅するまでの過程を追った衝撃作だった。
現実の世界でわが国が直面する「今そこにある危機」は、東北地方太平洋沖地震を端緒にして大地震が続発し、「日本沈没」が起こるという類のものではない。
それは、東北地方太平洋沖地震の発生→東京電力・福島第一原子力発電所の事故→中部電力・浜岡原子力発電所の運転停止→定期検査中の原発のドミノ倒し的運転中止→電力供給不安の高まり→高付加価値工場の海外移転→産業空洞化による日本沈没、という連鎖が発生し、日本が沈んでゆくという内容の危機なのである。
別表にあるように、3月11日の東北地方太平洋沖地震により、11基の原子力発電所が運転を停止した。それとは別に、5月末時点で、定期検査中でストップしている原発が18基ある。このほか福島第一原発4~6号機、浜岡原発3号機など6基も地震発生時に停止中だったのであり、その後、菅直人首相の強い要請によって、浜岡原発4、5号機もストップした。
5月末時点で運転されている原発は、基数でも出力でも日本全体の3分の1以下の17基1549万3000キロワットだけである。
現在、原発が立地する各県の知事は、定期検査終了後も、明確な新しい安全基準が示されない限り原発運転の再開を認めるわけにはゆかないという姿勢をとっている。地元住民の安全を考えれば、当然の措置である。
また、わが国では、13カ月ごとに原発が定期検査にはいるため、このままでは、来年5月にすべての原発がストップすることになる。
日本の電源構成の約3割を占める原子力発電が全面停止することになれば、当然のことながら、電力の供給不安が広がる。
ここで見落としてはならない点は、今夏ないし来夏にたとえ停電が回避されたとしても、電力供給不安が存在するだけで、電力を大量に消費する工程、半導体を製造するクリーンルーム、常時温度調整を必要とするバイオ工程、瞬間停電も許されないコンピュータ制御工程等々を有する工場の日本での操業が、リスクマネジメント上、困難になることだ。