最悪の連鎖を止めることができるのは国だけ

福島第一原発事故をふまえて浜岡原発を一時的に停止するという菅首相の判断は、手続きには問題を残したものの、一応、国民の支持を獲得した。その浜岡原発停止をふまえて、地元原発の定期検査明け運転再開に慎重姿勢をとる各県知事の考えも、理解できる。また、電力供給不安に直面して生産拠点を海外へ移す動きも、企業経営者としては、当然のことであろう。

このように一つ一つの矢印は善意にもとづいていても、それがつながってしまうと、「日本沈没」の最悪シナリオが現実化しかねない。

かつてカール・マルクスが『資本論』のなかで指摘したように、「地獄への道は善意で敷き詰められている」のである。

「日本沈没」へつながる連鎖を断ち切るうえで鍵を握るのは、「中部電力・浜岡原子力発電所の運転停止→定期検査中の原発のドミノ倒し的運転中止」の矢印を外すことである。そのためには、国がただちに、原発の地元住民と立地県知事が納得できるような、厳格でわかりやすい安全基準を明示する必要がある。

福島第一原発事故の教訓をふまえた新しい原発安全基準の中身は、(1)立地地域の有史以来最大の地震・津波を想定し、それに耐えうるものとする(最大限基準)、(2)地震学・津波学等の世界でより厳しい新たな知見が得られた場合には、それを想定へ反映させる(更新基準)、という2点を骨格とすべきであろう。