共生への地道な歩みは強い眩しさを放つ
そうしたなかで、町長が先頭に立って多文化共生に取り組む大泉町に注目する。行政が積極的に「ブラジル色」を押し出し、町公認のサンバチームまである。著者は「他のリトル・ブラジルを抱える自治体が、観光の目玉としてブラジル文化を売りにしているという話はおよそ聞いたことがない。日系ブラジル人たちはそうした市町村で、むしろ『お荷物』的な扱われ方をされているような印象すら受ける」とした上で、「大泉町の姿勢は、何と涼やかであろうか。異文化を肯定的に受け入れ、今ふうの言い方をすれば『ウィン・ウィン』の関係をつくっていこうという意思表明に響く」と書く。
最初からそうだったわけではない。ゴミの分別やパーティーの騒音など、主に生活習慣の違いが原因で、日本人の日系ブラジル人に対するまなざしは冷たかった。特に02年の日韓共同開催のサッカーW杯では、ブラジルの優勝に歓喜した日系人が車を破壊するなど暴走。群馬県警の機動隊が出動するほどの大騒動が起き、住民との間に深い亀裂ができた。
その反省から、日系ブラジル人も日本人も相互理解を深めるために努力を積み重ねてきた。いまでは共同で町の清掃ボランティアも行われている。そうした地道な活動の成果は着実に現れている。2014年のサッカーW杯ブラジル大会では、期間中、町の住民から騒音などの苦情はまったく出なかったという。
もちろん、課題は山積みだ。生活保護を受ける日系ブラジル人の増加、税金の滞納などは特に大きな問題だという。日系人に対するマイナスイメージも根強い。それでも、「昨今の世界では、民族や国籍、そして宗教を要因とした排斥主義が再び大手を振って横行している。『不寛容さ』が頭をもたげる時代であるからこそ、こうした共生への地道な歩みは強い眩しさを放つ」と著者は評価する。同感である。
東京から電車で約2時間。夏のリオ五輪に合わせて、大泉町に足を伸ばしてみるか。バーでサッカーを観戦しながら、ブラジル料理とビールを楽しむなんて最高だろう。