新しい情報に絶えず刺激を求めている
今年も3月に、東日本大震災の特集が各メディアで組まれていた。あれから5年――。今なお、先が見えない中で、生まれ育った地でなんとか生活していこうとする人たち、ボランティアをきっかけに移り住んで復興の一翼を担っている人たち、福島第一原発で口を閉ざしていた東電関係者の証言など、さまざまな報道が洪水のように押し寄せた。しかし、桜咲く4月に入ると、その動きはぴたりと止み、新たに発災した熊本地震が連日報じられるようになった。
わたしたちはとかく飽きっぽく忘れやすい。故に、新しい情報を貪るようにして食らい、その味覚より絶えず刺激を求めていく。自省を込めて言わせてもらえば、そのように誘導しているメディアにも責任の一端がある。だからこそ、地道な作業を積み重ねてきた「仕事」に大きな感動を覚えるのだ。
本書は、3.11後の福島にこだわった。地元の基礎自治体の市町村長をはじめ、122人の声を収録したものだが、その労力は相当なものだったと想像に難くない。本書の編集責任者となった編集委員会代表の古川猛氏(東方通信社代表)は、最初にこう記している。
<今「社会全体の利益」を優先させる「公益資本主義」への転換が求められている。福島第一原発の事故はその象徴といっていい。(中略)私たちはこの原発問題にどう向き合っていけばいいのか。その答えを求めて本書を出すことに。(中略)2012年8月に活動をはじめ、その収集と整理に2年半近くかかった。>