怒れる老人たちが立ち上がった
怒れる老人たちが、テロで日本をリセットするために立ち上がる――。時代設定は、東日本大震災から7年後の2018年。国内では自民党政権の功罪がはっきりと出ているはずだ。彼らがそこに何を見るのか。もし、自分たちの生きた国が、あまりにも不甲斐ない姿になっていたとしたら、やむにやまれぬ義憤にかられて過激な行動に走ったとしても不思議ではない。
小説に登場するオールド・テロリストたちは、70代から90代。つまり、昭和初期から戦後にかけて生まれた男たちなのである。ほぼ全員が何らかの形で太平洋戦争を体験し、食糧難、物不足の時代を必死に生き抜いてきた。そして何より、それぞれの立場で日本の高度経済成長を担ったという自負と誇りを胸に秘めている。
彼らの何人かは企業家や医師といったように、経済的にも成功し、社会的な地位もある。ある老人は「おれたちって、家庭とか、あと仕事だな、何か問題があって、参加したやつなんか誰もいないんだよ」と自信満々に語っている。そうなのだろう。悠々自適の老後を過ごすという選択肢も目の前にはあったと思う。しかし彼らはあえて、静かな老後に背を向けた。
さて物語は、セキグチという中年のフリー記者を語り部として展開していく。発端は、メディアにも予告された、渋谷のNHKでの揮発性可燃物によるテロである。そして、立て続けに大田区池上の商店街、新宿歌舞伎町の大きな映画館でも無差別殺人が起きる。3つの事件現場に立ち会ったセキグチは、実行犯が職もなく、他人とのコミュニケーションも苦手な若者たちだと知って、彼らの背後にうごめく存在に疑問の眼を向けていく。