日本の閉塞感はテロリストを生むか

やがてセキグチは、黒幕であるオールド・テロリストの何人かと対面する。あるメンバーは「もう一度日本を焼け跡というか、廃墟にする」のだと声高に叫ぶ。そして、中心人物であり、年商数百億円のグループのトップであるミツイシは「君は歴史を目撃することになる。歴史とは世の中の軸が変わることだ」と語り、セキグチに記録して発表するように告げる。

彼らがテロの武器として用意したのが、何とミツイシの父親が満州から引き上げる際に持ち込んだ、旧ドイツ軍の88ミリ対戦車砲だ。これを使用し、日本国内の原発を狙うのだという。3つのテロは、そのための前哨戦だった。とはいえ、そのために人の命を犠牲にすることに大義はない。しかしセキグチには、心のどこかで老人たちに共鳴するところがあった。

迷ったセキグチが、知人の元官僚や外資系金融会社に勤める別れた妻にも相談したことから、日本政府と米国が介入。圧倒的な権力と兵力を前に、老人たちは成すすべもなく殲滅させられていく。オールド・テロリストたちの戦いは終わったが、セキグチは、その一部始終を老人たちの側から体験した。ミツイシのはからいで脱出することができた彼は、それを記事にすることを心に誓う。

こうして事件の評価はセキグチの筆に託されたということになる。それにしても、小説の最後は血なまぐさく、そこには滅びの美学はない。だが、彼らの生きざまには"一陣の風"のような清々しさが間違いなくある。それはやはり、わが身をなげうってでも、この国の閉塞感を打開しようとした潔さにほかなるまい。

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