人を育てて、はじめて一人前になれる

書と短文とイラストのハーモニーで織りなされるこの本(厳密には校正の赤字入りのゲラ)と出会ったのは、ちょっとした偶然からだった。お世話になっている出版社の社長と久しぶりに会った際に、「今度面白い本を出すんだよ」と言われ、ゲラでもいいからすぐに読んでみたいと所望したのである。

『母、いのちの言の葉』(漫遊書、エッセイ)黒田クロ、(ことばの語り)木村悠方子/高木書房

届いたゲラをまずは一気読みし、絵と書を味わいながら二度、三度読み返す。副題に「一瞬で心を和ます言霊」とあるが、心が和むと同時に考えさせられた。

たとえば、『自分のことができて半人前、人を育てて一人前』という書がある。ことばの語りとして「仕事ができるようになったのは、先輩のお蔭。出会った人のお蔭。自分の力じゃない。振り返ったらたくさんの顔が浮かぶ。これからは、人を育てて恩繋ぎ、恩送りをしなければ」と誓いを立てる。

人がこの世に生を受け、次の世代を世に誕生させ、しかるべき引継ぎをして務めを終える。連綿と続けられてきた人間の営みに思いをはせ、自らが果たすべき役割を認識する。そして、その哲学的思索をより平たい言葉で表しているのである。

ことばの語り部として本書の短文を綴ったのは、苗字を見ていただけば分かるが、おそらく日本一有名なアイドルグループのメンバーの母親。役者としても活躍する長男と次男を育てた体験、自らの少女時代からの人生を振り返りながら、彼女自身の言葉を紡いでいく。

子育てを語った部分などは、自分の体験を振り返ると反省させられる点も少なくない。仕切り直しができないことこそ、時に立ちどまって考えることが必要なのだろう。