ひょんなきっかで始めた古本屋
ああうらやましい、というのが率直な感想。こんなふうに暮らせたらいいな、と。
本書のタイトルにある本屋とは、新刊書店ではなく、古書店だ。それも「日本一狭い古本屋」。沖縄・那覇の、観光地としても有名な市場中央通りに、「市場の古本屋ウララ」はある。店の向かいは第一牧志公設市場だ。店内はたったの1.5坪、路上にも1.5坪ほどはみ出しているから、合せて3坪。レジも固定電話もない。店主は路上のイスにちんまりと座って店番をする。両隣の漬物屋と洋服屋とは、壁があるようなないような感じでユルくつながっている。あるじがトイレなどで留守にすると、漬物屋さんが代わりに店を見ていてくれる。その逆もある。南国らしい大らかさがなんともいい感じだ。
本書は、2011年、ひょんなきっかけで古本屋を始めた30代女性の日常をつづったエッセイ集である。全体に流れる、肩の力の抜けた軽やかさが気持ちいい。著者は神奈川県出身。大学卒業後、ジュンク堂書店に入社、池袋本店で人文書を担当した。大書店での仕事は充実していたが、会社勤めに不自由、息苦しさも感じていた。09年に那覇店が開店すると、希望して転勤。心機一転をはかるものの、モヤモヤは続く。そんな折、知り合いが営んでいた古本屋が店をたたむと知って、「これだと確信」し、引き継いだ。
立地はとても恵まれている。商店街にはたくさんの店が軒を連ね、地元住民や観光客でにぎわう。これだけ人がいれば、自分ひとりが食べていくくらいはなんとかなるだろう、失敗したってたいしたことはないと決断した。
特徴を出すため、扱うのは沖縄の本に絞った。もともと沖縄の本に関心があった。ジュンク堂書店那覇店では沖縄本のコーナーを担当していた。沖縄本のなかでも、力を入れるのが沖縄の出版社の本(沖縄県産本という)だ。意外にも沖縄は出版が盛んで、1人でやっているような出版社がたくさんあり、主として地元県民向けに本をつくっている。県内のほとんどの本屋には地元本コーナーがあり、その充実ぶりは他県とは比べものにならないらしい。「沖縄の人には、自分たちのために書かれた本がこんなにある。そして、沖縄の本には買う人がきちんといる。うらやましく思い、せめて売り手としてそのなかに入りこみたい」と願ったことが、沖縄で古本屋をはじめた一番の理由だと著者は述べている。