本書の内容を一言で言うと、「書を持って、町に出る。そして、仲間と一緒に世の中を変える」とまとめられる。著者・神田昌典氏は、速読術のフォトリーディングを日本に持ち込んだ人物だが、本書はフォトリーディングの「その先」の読書術を述べたものである。
しかし、その方法は通常のビジネス書で説かれる読書術とは大きく異なり、なんと「大勢で本を読む」というものだ。
本書ではそのため、読書会の記述に多くが割かれている。なぜ、みんなで読む必要があるのか。そもそも、本は一人で読むものではないか。当然、そのような疑問がわくだろう。
神田氏はいう。戦後の高度経済成長期には、斬新な発想をする人より、決められた方向性に則って着実に業務を遂行できる人が求められた。翻って現代はあらゆる分野において、進むべき方向性が見えない時代である。問題は複雑化し、一人ではとても答えを見つけ出すことができない。
みんなで読むことで、自分一人では考えもつかなかった視点が得られ、また異なる属性の人々からのダイバーシティ(多様性)豊かなフィードバックにより、高度な知識創造が可能になるという。
実は古くから、危機の時代や時代の変革期には読書会が開かれてきたと神田氏は指摘する。2015年のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』は、吉田松陰の妹・文の生涯を通じて幕末から明治維新に向けた激動の時代を描く作品だが、その吉田松陰の「松下村塾」、あるいは緒方洪庵の「適塾」では、「全員で本を読み、議論する」教育が行われていた。
松下村塾から輩出された高杉晋作や久坂玄瑞、伊藤博文、山縣有朋、あるいは適塾の福澤諭吉や大村益次郎、橋本左内などが新しい時代をつくる立役者となったことはよく知られている。
現代は幕末と同様、危機と変革の時代であると評者も考える。その大きなきっかけは東日本大震災であり、また少子化や高齢化から生じる人口減少や地方消滅の問題だ。
果たして、こうした大きな課題に対して、かつて日本を動かすムーブメントを起こした松下村塾のように、読書会という古くて新しい読書術が役立つのか?
すでに日本各地で、こうした読書会が行われているという。神田氏が11年に立ち上げ、評者も理事として関わっている「リード・フォー・アクション」では、ビジネスや歴史、子育てなどをテーマにした読書会のほか、「まちヨミ」という、地域活性化を目的とした読書会も郡山や富山、西宮、徳島など各地で開かれ、本年中には40カ所に達する見通しだ。
著者が主導する今回の読書会ブームが、どのような社会変革につながっていくのか。読書会の「その先」に、大いに期待したい。