Q 『プロフェッショナルサラリーマン』に「プロは本を買うとき、棚の端から端まで買う」とありますが、「これだけは読んでおくといい」というような、仕事に役立つオススメ本を何冊か教えていただけませんか?(保険会社、男性、44歳、入社18年目)
『プロフェッショナルサラリーマン』のなかで、異業種から学ぶことの重要性を述べていますが、俣野さんが異業種からアイデアを得たことがあれば具体的に教えてください。また、その事例から得た教訓は何でしたか?(スポーツメーカー、男性、41歳、入社10年目)
A 今回は2つの質問に答えようと思います。まず1問目の質問ですが、拙著『プロフェッショナルサラリーマン』の巻末に「プロフェッショナルサラリーマンを目指す人に読んでほしい本リスト」として、14冊の本を挙げています。
詳しくはそちらを参考にしていただければと思うのですが、自分にとって最適な一冊というのは正直なかなか見つかりません。
そして見つけにくいからこそ価値があるのだと思います。自分が必要とするものは年齢や背負っている役割で変わっていくものです。ですから、読書において大切なのは、本から得られる情報そのもの以上に、学ぼうとする姿勢と習慣だと思います。
そして、本1冊の価値というのは全ての文章が自分の期待を超えていなければならないということではなく、自分を変える一行一句に出会えるかどうかで決まります。
特にビジネス書については、実際に自分の仕事の成果に繋がるかどうかが、その本の価値を決めるので、一文一語でも役立つ内容があれば、それは自分にとって価値ある本と言えるでしょう。
僕が最近読んで面白かったのが、『ザッポスの奇跡』(石塚しのぶ著、廣済堂出版)、『ザッポス伝説』(トニー・シェイ著、ダイヤモンド社)の2冊です。この本は靴のオンラインストアであるザッポスという会社について書かれた本です。この本について話すことが、「異業種から学んだことは何か」という2番目の質問について答えることにもなると思います。
ザッポスはトニー・シェイという若者が始めた靴のインターネット通販を行うアメリカの会社です。この会社が画期的なのは、「通販で靴は売れない」という常識を覆したこと。
なぜ通販で靴は売れないかというと、靴は実際に履いてみないことには本当にフィットするかどうかわからないから。「靴だけは店頭で試し履きをしてから買う」と決めている人が多いはそのためです。
オンライン物販の最大手であるアマゾンも、靴を扱うことには長い間二の足を踏んでいましたし、扱い始めてからも売上は伸び悩んでいました。
ところがザッポスはオンラインの靴の販売で、シェアの3分の1を占めるまでに急成長します。そこでアマゾンはザッポスのサイトに構造を似せたサイトをつくるなどして、ザッポスに圧力をかける。しかし結局「ザッポスにはかなわない」と判断したアマゾンは、ザッポスを日本円にして約800億円ともいわれる値段で買収したのです。
アマゾンといえば、インターネットにおける物流の王者です。そのアマゾンがなぜ白旗をあげたのか。
アマゾンは徹底的に人を介在させず、業務を機械化しています。電話をかけようにも、電話番号がサイトのどこにも載っていないというのは有名な話。その代わり、品揃えはまさに「地球最大」です。そして自社在庫を持っているがゆえに、頼んだものは確実に届くという信頼感がある。これがアマゾンの強みでしょう。
一方、ザッポスのCEOトニー・シェイはこう言っています。
「たまたま靴を扱っているだけで、われわれはサービスを売る会社です」
ザッポスの売りはアマゾンとは正反対に、人間的な温かいサービスにあるのです。顧客がほしがっている靴が在庫切れなら、在庫のある他社のサイトを教えるとか、顧客と3時間も電話で話したとか、まるでコンシェルジュのような対応をしている。
そして一番の売りは、365日以内なら、外に履いていかない限り返品フリー、しかも送り返す際の送料も無料というところ。「気になったものは全部取り寄せてみてください」というわけです。
するとどうなるか。お客さんの自宅が試着室になります。買うのは1足だけのつもりでも、取り寄せるのは2足、3足、それ以上。でも返品するのは1年後でもいいから、とりあえず置いておく。するとつい履いて出かけたくなり、「まあいいか」と購入してしまうというわけです。
この事例から僕が学んだことは3つ。
まず、弱者は徹底的に差別化しなければならないということです。アマゾンは強者、ザッポスは弱者。同じことをしていては絶対に勝てません。そこで1年間返品フリーという思い切ったサービスをした。アマゾンは強者のセオリーにのっとって、弱者を規模で上回ろうとしたけれど、結局ザッポスの差別化のほうが顧客に支持された。それに800億円の値がついたということです。
もう1つの教訓は、世の中でみんなが不満に思っていることを「仮想敵」にするという方法があるということです。「かわいい靴を買いたいけれど近くにいいお店がない」とか、「インターネットで靴を買うのは、サイズが合うかどうか心配」という不満を仮想敵にして、それをやっつけることができれば、それは大きなビジネスチャンスになる。
3つめは、「文化をつくる」というキーワードで発想すると新しいことができるということ。ザッポスはいままでインターネットで靴を買うという文化のないところでそれを成功させた。ということは文化をつくったわけです。
この3つの教訓が、具体的に僕の仕事にどのように生かされるかはまだわかりません。でも僕は1行でも線を引きたくなる箇所があればそれはいい本だと思っています。そういう意味でこの本は、線を引きたくなるところだらけの1冊でした。
セブンアンドアイの鈴木敏文さんが、ある書籍で「自分にとって心地よい箇所ではなく、自分が違和感を持つところにこそ線を引くべき」という内容を書かれていました。自分を変えるヒントを探すのが読書の目的という読書観が言い得て妙ではありませんか。
※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)