“被災”火力発電所は全面復旧へ?
今、世界中の人々が原子力発電に強い危機感を抱き、安全な日常を願っている。しかし、日本政府や原子力産業は、「エネルギーがなければ生活も産業も成り立たないのだから、原発はやはり必要だ。再生可能エネルギーへの転換ばかりを求める原発反対世論は、現実を知らないただの夢想でしかない」と言わんばかりの説明で国民の不安を一蹴する。欧米で「脱原発」の動きが湧き上がるなかで、日本のマスメディアは国内で盛り上がる市民運動すら黙殺し続けている。
3度目の悲惨な「放射線被曝」を体験し、甚大な環境汚染を世界に撒き散らし、しかもそれがいまだ続いている真っ只中の6月1日、米ウェスチングハウス(東芝傘下)・日立製作所・米GE連合による「リトアニアへの原発売り込み」の動きが報じられて国民を呆れさせた。これをバックアップする経済産業省は、原子力行政の見直しを表明した菅直人首相を相手にもせず、原発を中心に据えたエネルギー基本政策を発表した。
さらに、同省所管の日本エネルギー経済研究所は6月13日、「国内の全原発停止で火力発電がこれを代替すれば、1カ月当たりの標準家庭の電気料金が来年度には1049円増加する」との報告書をまとめた。値上げに応じれば全原発を廃止できる理屈になるわけだが、作成者がそれに気づかないのは迂闊だからか。
そして、その2日後には「原子力損害賠償支援機構法案」の閣議決定を受けた東京株式市場で、事故の責任をとるべき東京電力が株価を32%押し上げてストップ高となり、18日には海江田万里経産相が、定期検査中の原発の運転再開を認めるよう地元自治体に要請、その後、首相もこれを追認する。
官僚と原子力産業に“力負け”した政治家に、イタリアやドイツのような原発廃止への政策的舵取りは覚束ない。国内では一部の学者を発信源として「原発なしでもエネルギーは足りる」という情報がネット世論に拡散したが、その具体的な根拠を伴う数字は見当たらない。