五輪切符は戦略的強化と「ひたむきさ」の賜物

浅見敬子ヘッドコーチ(HC)が就任したのは2011年。1年目にはフィットネス(体力)に重点を置き、2年目にフィジカルなどのストレングス、3年目にはスピード・トレーニングを加え、4年目の昨年からラグビーの戦術の落とし込みに入った。走り込みや筋力トレーニングだけでなく、食事、睡眠、からだのケアも充実。

結果、選手たちのからだはたくましくなった。宮崎善幸ストレングス&コンディショニングコーチは「食事やリカバリーをしっかりとるなど、選手のからだづくりの意識が以前とは全然違います」と説明すれば、浅見HCはこう、言い切った。

「やっぱり、強いからだが強い心をつくるんだなということがはっきりしました」

もちろん、これも選手たちが「素直」「ひたむき」だったからである。「勤勉」だったからである。この5年、いろんなことを犠牲にして、ラグビーに没頭してきた。五輪キップは、そのご褒美といってもいい。

男女そろっての五輪出場決定となった。セブンズの強化を担当する日本協会の本城和彦オリンピック・セブンズ部門長は「結局、強化に特効薬的なものはない」と言う。

「チームがスタートした時、しっかりしたシナリオを書いて、コーチングスタッフはそれに沿ったトレーニングを提供して、こつこつ強化していくしかない。選手がそれについてきた。大事なことは、そこだと思う」

サクラセブンズの世界での現在地は「10位前後」だろう。ニュージーランド、カナダ、豪州、英国のトップ4との差はまだまだ大きい。まずは個人のフィジカル、フィットネス、技術から鍛え直さないといけない。アタックで抜く力、パススキル、タックルでは倒し切る力。実戦強化のため、リオ五輪アジア予選日本大会閉幕の翌日、サクラセブンズはワールドシリーズに出発した。

日本の目標は「五輪金メダル」である。これは浅見HCら選手たちが、5年前のチーム発足時から公言してきた。ぶれていない。

中村主将は言った。

「ここがスタートラインと思ってやっていきます」

サクラセブンズが花開いた。あと9カ月。桜満開となるのは、来年のリオ五輪で優勝した時となるのだろう。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
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