メキシコと言われたのにチケットは「コロンビア」

海外でのスポーツ指導者の多くは、チャレンジングな人生を歩んでいる。柔道のコロンビア代表の早川憲幸ヘッドコーチ(HC)もそのひとり。「弱い国の選手を強くする。強くなれば、柔道が自然と世界に広まる。本家の日本ではなく、他国を強くする喜びがあります」。ネクタイ姿の背筋を伸ばし、言葉に充実感を漂わせるのである。

このほど、世界チャンピオンの愛弟子、女子70kg級のユリ・アルベアルとともに日本に1カ月間、滞在していた。全日本学生体重別団体女子で優勝した帝京大などで猛練習を積んだ。早川HCは「日本には練習相手がたくさん、いる。選手を“追い込む”ための合宿でした」と言う。

渡航費については、2014年からアルベアルをスポンサードする子ども服の『ミキハウス』が面倒をみてくれた。

34歳。独身。おおむね社会生活において「富裕層」や「エリート」に属したことはない。実家が、埼玉県の柔道道場だった。厳しい指導にも、のびのびと育ち、埼玉・埼玉栄高、明大と活躍した。ただ「オリンピックを目指せるようなレベルじゃなかった」と謙遜する。

大学卒業後、柔道を続けながら、接骨院や川口市体育協会で働いた。消防士もやったことがある。いずれにせよ、職種にはさほど意味はない。心は柔道にのみに向かっていた。

2009年、大学の先輩であるプエルトリコの柔道指導者から電話をもらった。海外で柔道を指導しないか、と。二つ返事でOKした。先輩からは「メキシコ」と言われていたのに、送られてきた航空チケットをみたら、渡航先は「コロンビア」だった。

早川HCが笑いながら思い出す。「先輩の言っていることはいつもダイナミック過ぎて。でも、そもそも海外に行きたかったから、場所はどこでもよかったんです」。28歳の時だった。