練習開始に集まらない選手たち

コロンビアに行って驚いた。提供された家は「無駄に柱が多い7畳ぐらいのワンルームのアパート」。同国の柔道連盟からもらった最初の手当ては月30ドル(約3000円)だった。過酷な指導者生活がはじまった。

柔道は未開の地だった。指導する市運営の道場クラブの選手は男女6人ぐらいだった。貧困育ちのアルベアルは素質も練習に取り組む姿勢もずば抜けていた。ほかには60歳前後のタクシー運転手、絵描き、登山家……。おのずと、早川HCがマンツーマンでアルベアルを指導するようになった。

練習環境も日本と比べると、劣悪だった。畳みはあるが、ウエイトトレーニングの器具はなかった。選手たちには、近くの公園で砂袋を上げ下げさせた。

南米特有のおおざっぱな気質には戸惑うことが多い。一番困ったのが時間にルーズな点だった。正午に練習開始といったら、だいたい午後1時ぐらいに集まる。ならば、と午前11時からとウソをついたら、ばれて、やっぱり午後1時に選手たちはやってきた。早川HCは苦笑いを浮かべる。

「初めの(開始の)礼には、2人とか、3人とかしか集まらないのです。体操しているときに“コンニチワ”とやってくる。最初の頃は、怒って、道場のカギをしめて、遅れたやつを入れなかったら、少なくて練習にならないんです。だから、時間通りに来させるのはあきらめました」

指導は、量より質でやった。粘りがないから、集中力で勝負させる。指導では個性を大事にします、と早川HCは説明する。

「日本のものを100%教え込もうとしても、日本人相手には勝てません。悪い癖を残して、日本のものを加えていく。ハイブリッド的な柔道です」

日本式のオーソドックスな柔道スタイルではない。アルベアルに対しても、得意とする双手刈、朽木倒、肩車などを伸ばし、相手とはけんか四つになるような組み手の指導も行った。結果、アルベルほかコロンビアの選手は左右両方の組み方ができる。