現在のコンピュータは、ある分野では人間をはるかに凌駕する。たとえば計算能力を取ると、10ペタフロップスの能力を持つ京コンピュータは1秒間に1京回の浮動小数点演算(小数点を含む計算)をこなす(1京とは1の後ろに0が16個並んだ数字)。人間なら1秒に1回も計算できないだろう。つまり計算能力では、コンピュータの能力は人間の1京倍以上あるといえる。

またビッグデータの解析でも、コンピュータは人間の能力をはるかに上回っている。コンピュータは何千万ものデータを解析して、人間には気づかない傾向を見つけたりする。

子供は人工知能よりはるかに優れている

ところが二足歩行を考えると、ロボットの歩き方はヨチヨチ歩きであり、子供程度の能力しか持っていない。パターン認識の能力を取っても、人工知能は人間に敵わない。たとえば、犬と猫の区別は3歳の幼児でも簡単にできるが、コンピュータには難しい。12年にグーグルの人工知能が猫を認識したと話題になった。グーグルは1000台のコンピュータに、動画投稿サイトYouTubeから取った1000万の静止画像を見せて、3日間学習させた。手法は教師なし深層学習(Deep Learning)というものである。

その結果、コンピュータのモニターに猫の顔が浮かび上がった。つまりコンピュータが猫を認識したというわけだ。これは確かにすごいことである。が、人間の子供なら3歳の幼児にでもできるし、そもそも人間の子供は1000万もの猫を見て学習するわけでもない。つまり人間はパターン認識において、人工知能よりはるかに優れているのである。

先に述べた汎用人工知能とは、このように人間がコンピュータより優れている特徴、たとえばパターン認識力や一般常識などを備えた人工知能だ。現在の人工知能研究は圧倒的に狭い人工知能に集中しているが、一部の研究者は人間並みの知能を持つ人工知能の完成を夢見ている。米国のある研究者はあと5年で完成可能といい、日本のある研究者は20年代前半の完成を目指す。汎用人工知能研究の大御所によれば、頑張ればあと10年。前出のカーツワイルは29年に完成するという。14年先だから、十分に可能な気がする。

この時点、つまり人間並みのパターン認識能力と常識を備えた、1Hの能力の汎用人工知能の完成の時期を前特異点と呼ぶことにする。すると、これからの歴史は15年から29年までのほぼ15年間と、30年から45年の特異点までの15年間、さらに特異点以後という3つの期間に分けることができる。当面、我々にとっての関心事は15~29年。特定の分野において、人間よりはるかに優れた狭い人工知能が爆発的に発展していくことにより、人間社会に大きな影響が及ぶ期間である。