「技術というのはやってみないとわからない」

新しい年を前に、これからの歩みに思いをめぐらし、姿勢を整え直す。こうした季節のやり取りの媒体として、年賀状には長い歴史がある。しかしそこにも変化はある。

年賀状の発行枚数のピークは2003年。この年に44億6000万枚を数えた発行枚数も、昨今は30億枚程度と、約10年の時間を経て3分の2にまで縮小している。

ところがその中にあっても、セブン-イレブンでは近年、年賀状の売り上げが増加している。従前の2色刷りや4色刷りの売り上げは減少しているのだが、新しい絵柄がこの販売増に寄与しているのだという。

「私製ハイブランド」年賀状の裏面。色合いと立体感は従来のものと一線を画す。

その1つが「私製ハイブランド」。昨年末よりセブン-イレブンの年賀状に加わった高級ラインである。50枚で7820円(税込み、切手代含まず)と、他のキャラクター年賀状と比べて1.4倍ほどの価格だが、今までにない絵柄が好評だという。

「私製ハイブランド」の独特の高質感はどこから生まれるのか。この絵柄を提供するデザイナーの北川一成氏によれば、「私製ハイブランド」には、グラフィックでありながら物質感を持たせたデザインが採用されているという。その絵柄のひとつを見せてもらうと、確かに立体感や光沢感があり、印刷物特有のべたっとしたフラット感がない。

この印刷加工には、通常の平面オフセット印刷に加え、エンボス加工と箔押し加工が用いられている。エンボス加工とは、紙の両面に凹と凸の型を当て圧力を加えることで、紙を浮き出させる加工であり、この浮き出しを多段階で行う彫刻型が用いられている。一方の箔押し加工とは、金や銀など箔を熱で圧着させる加工である。

「私製ハイブランド」の絵柄の物質感は、これまで併用されることが少なかったこの3つの技法のすり合わせから生まれた。この方法を編み出した北川氏は、「技術というのは、やってみないとわからない」という。

規模の小さい会社がひしめく印刷業界。国内の需要減少は、競争の激化に直結する。その中で多くの印刷会社が、特定のジャンルに特化することで生き残りを図ってきた。

たとえば、オフセット印刷の会社であれば、複数のオフセット印刷機を持つようにすることで、作業効率を高めつつ、専門性を高める。規模の小さい会社が独自の強みを磨き、棲み分けつつ生き残っていくには、合理的な対応だといえる。

しかしビジネスの世界には、あらゆる可能性をすくい取れる合理性追求は存在しないと考えたほうがよい。すべての印刷会社が専門特化の合理性を追求していけば、先の「私製ハイブランド」の絵柄のような特殊で高付加価値の表現への道は閉ざされてしまうのだ。