人は挫折しても必ず立ち上がる。読後、伝わってくるのは清武英利さんの信念である。

「リストラはしない」と宣言していたソニーが、なぜ17年間で8万人という人員整理に陥ったのか。本書はリストラに巻き込まれた社員たちのノンフィクションである。

清武英利(きよたけ・ひでとし)
1950年生まれ。75年読売新聞社入社。社会部記者として、警視庁、国税庁などを担当。運動部長などを経て、2004年読売巨人軍球団代表兼編成本部長。11年専務取締役球団代表を解任され、係争中。著書『しんがり 山一證券 最後の12人』で14年度講談社ノンフィクション賞受賞。

清武さんは読売新聞を辞してからのテーマについて「後列の人を描くこと」と語る。

「記者時代はジレンマがありました。新聞では『リストラ』という一言で片付けるから、渦中の人たちの思いや実態が描けなかったんです」

40代後半で早期退職を勧告された男性が登場する。彼はかつて世界一と賞されたカーオーディオを開発したエンジニアだった。綴られた状況や心の揺らぎは、組織で働くすべての人にとって他人事とは思えないのではないか。

〈「追い出し部屋」とも言われるキャリア開発室で退職を拒み頑張るほどのしぶとさを、岩出は備えていなかった。一方では「俺は会社から捨てられるような人間じゃないはずだ」とも考えていた〉

「現実は嘆くだけではすみません。リストラの現場には、その数だけ再生があり、立ち上がる人がいるのですから」

多くのソニー社員が実名で登場する。リストラは会社員の尊厳を傷付ける。実名公表を躊躇する人もいた。

「将来や家族との生活……。大きな組織から出た人が向き合わざるをえない不安はわかります。一歩を踏み出し、生き直す勇気を持てたからこそ、名前を記すことに同意してくれたのかもしれません」

組織を去り、新たな挑戦をする。重なるのは清武さんの来歴である。編集委員や運動部長などを経て巨人軍のGMなどを兼任したが、2011年に解任。その後、1人のジャーナリストとして書いた『しんがり』で講談社ノンフィクション賞を受賞する。18年前に破綻した山一証券で、最後まで清算業務を続けた12人を描いた作品だった。

「ぼくの場合、やることが決まっていた。やれることは書くこと。やりたいことも書くこと。それに尽きるな、と」

清武さんは定期的に自らの死亡記事を書くという。

「残りの人生を逆算して、何をやり遂げるか最後に必ず書く。死亡記事というより希望記事ですね」

〈売れないが感涙の名著多数〉に続く最後の一文は決めている。〈晩年は、桜の盆栽家と呼ばれた〉。

(初沢亜利=撮影)
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