かわひらこ。手慰みに辞書をめくる習慣のあった著者は、見慣れない単語に釘付けになった。その意味は、蝶。古くに日本で使われていた大和言葉である。
日本語の単語には、外来語、中国語を源とする漢語、日本で発生した大和言葉の3種類がある。ふとしたきっかけで大和言葉に魅せられた著者が、普段でも使えそうな単語に的を絞って集めたのが本書だ。ページをめくると、「逢瀬」「たまさかに」「言祝(ことほ)ぐ」など、ふくらみのある日本語が並ぶ。
「大和言葉の特徴は、響きの中に情緒があること。ビジネス文書は機能的で概念が整理された漢語を使うことが多いのですが、そればかりでは無味乾燥になりがちです。たとえば『妥協する』を『折り合う』、『仲介』を『とりもち』に言い換えると、ずいぶん和みませんか」
また本書は最近見かける、妄信的に日本を礼讃する書籍ではない。「よその国と比較して、日本のほうが優れていると主張するつもりはありません」と語る著者は、言葉が変わったり消えたりすることも自然の摂理ととらえる。
「ただ、地域のつながりが失われたり、核家族化によって、昔の言葉を共有する機会が減っているのは気がかりです。知らないという理由だけで言葉が消えていくのは、もったいない。古くていいものがあることは伝えたいですね」
お気に入りの大和言葉を聞いてみた。その答えは「結ぼれる」。糸が絡んで結び目ができた状態に由来し、「鬱屈する」という意味だ。「『鬱』は字を見ているだけで気が滅入りますが、『結ぼれる』だと解こうと思えるので」。心が変われば人生が変わる、という教えがある。同様に、言葉が変われば心も変わるのだ。
(鈴木 工=構成 市来朋久=撮影)