いかに相手が話しやすい空気をつくるか
取材で人に会う前は、ひととおり資料を読んで「こんなことを聞こう」とある程度決めておきます。ただし、10も20も質問項目を用意してインタビューに臨むようなことはしません。頭の中にあるテーマはせいぜい3項目。あとは、相手の話を聞きながら考えるようにしています。最初からメモを片手に、あれもこれも聞き出そうと前のめりになっていたら、自分の質問を切り出すタイミングばかりが気になって、肝心の相手の話が耳に入ってこないからです。
取材で大事なのは、いかに相手が話しやすい空気をつくるかに尽きます。そして、それにはいま目の前にいる人に関心を持ち、一言も聞き漏らさないぞと真剣に耳を傾けるのが一番です。この人は、心から自分の話をおもしろがって聞いてくれていると思ったら、誰だって悪い気はしないし、もっとサービスしてあげようという気になるでしょ。
これは取材だけでなく、あらゆるコミュニケーションの基本です。たとえば、あなたはお酒の席で、向かいに座る上司の話を聞きながら、近くに来たお店の人に、つい「あ、ビールもう1本。それからメニューももらえますか」と、注文するようなことをしていませんか。
これは上司に対し、「あなたの話には興味がありません」というメッセージを送っているのと一緒です。しかも、そこで話が尻切れトンボで終わってしまったら、上司の心の中には、「まだ続きがあったのに」というわだかまりがずっと残ってしまいます。コミュニケーションが苦手という人は、話し方や伝える技術以前に、案外こういうところに原因があるのです。
では、こういうときはどうしたらいいのでしょうか。たとえ自分のグラスが空でも、とりあえず上司の話が一段落つくまではしっかりと話を聞く。もし、途中でやむをえず話の腰を折ってしまったなら、「失礼しました。で、そのあとどうなったのですか」と、こちらから話の続きを催促するのです。
このようにして、ビールよりも何よりも、いまはあなたの話を聞きたいのですという気持ちが伝われば、相手は気持ちよくしゃべってくれます。