私たちは真剣な議論の中で、「正しい」という語を、テーマに斬り込む剣のごとく用いる。だが言葉の本当の意味を理解できているだろうか。語源に詳しいライターの高橋こうじ氏が解説する――。

「正しい」の意味をうまく説明できますか

「彼の考えは正しいと思う」「いや、私は正しいと思わない」

そんなふうに、私たちは真剣な議論の中で、「正しい」という語を、テーマに斬り込む剣のごとく用います。そして、こうした議論から導かれた結論は、それ以後の両者の言動や人間関係を左右する重要な要素となることが少なくありません。

しかし、そのような大事な役を担わせている割に、「正しい」という言葉の本当の意味を理解している人は少ない、というのが私の印象です。

『日本の言葉の由来を愛おしむ―語源が伝える日本人の心―』高橋こうじ(著)東邦出版

たとえば、あなたが「○○は正しい」と主張し、納得しない相手が「その『正しい』って本質的にどういうこと?」と聞き返してきた……。そんな展開になったら、あなたは「正しい」の意味をうまく説明できますか。

「正しい」は、きっぱりとした語感を帯びた言葉ですが、それゆえに、無造作に使うと納得できない聞き手を興奮させ、そこから先は感情的な言い合いになってしまう可能性が大。そんな事態を避けるためには、そもそも「正しい」とは本質的にどういう意味か、ということをしっかり理解しておくことが大切です。

そこで今日は「正しい」という語の本来の意味を、その語源をたどることで確認しましょう。ぜひ、この機会に「正しい」の本質を理解し、今後のコミュニケーションに生かしてください。

なお、誤解が生まれないように言っておきますが、どんな言葉でも語源の分析が本質を教えてくれるわけではありません。長い年月の中で意味が変化した単語もたくさんあります。でも、ありがたいことに「正しい」の場合は、語源がその意味の本質を見事に示してくれるのです。私は「日本の言葉の由来を愛おしむ」という本を書く中で、そのことに気づきました。そこで、ここからはこの本の引用を交えて「正しい」の語源をご説明します。